安楽死を願う父と娘たちのさまざまな葛藤を描いた作品。
重くなりそうな話をフランソワ・オゾンらしくさらりと表現していて、素晴らしいです。
化粧っ気のないソフィー・マルソーが綺麗でした。

この父親を受け入れられるかどうかが鍵かも…
目次
ユーモアと好奇心にあふれ、生きることを愛してきた85歳の男性アンドレ。脳卒中で倒れ身体の自由がきかなくなった彼は、その現実を受け入れられず安楽死を望むように。人生を終わらせるのを手伝ってほしいと頼まれた娘エマニュエルは、父の気が変わることを願いながらも、合法的な安楽死を支援するスイスの協会に連絡する。父はリハビリによって徐々に回復し、生きる喜びを取り戻したように見えたが……。
2021年製作/113分/G/フランス
原題または英題:Tout s’est bien passe
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2023年2月3日(『映画.com』より引用)
安楽死や尊厳死の是非を問うものではなく、一人の老人の決意を娘たちが尊重し叶えていく道のりです。
尊重、と言いましたが、この父親アンドレは元々頑固で強権的なため、望みを聞かざるを得ないということを娘たちは分かっています。
アンドレが安楽死を望むのは、病で捨て鉢になっているのではなく、充分に人生を楽しみ尽くしたという意味だととらえました。
病状がある程度回復しても気持ちが変わらなかったのはそのためではないでしょうんか。
ソフィー・マルソー演じる娘のエマニュエルとアンドレの関係は、必ずしも愛情だけではありません。
父の言動に傷ついた過去や、実はホモセクシュアルだったため母親をひどく傷つけたこともあり、複雑です。
病の父を思う気持ちの一方で憎む心もあり、そこにリアリティが感じられました。
このテーマで重くならなかったのは、意外とエマニュエルがリア充で、父親と接していない時はジムに通ったり、誕生会を開いてもらったり、ホラー映画を見たり、夫とはラブラブですし、結構人生を楽しんでいるからではないでしょうか。
この性質が父親と似ているのかもしれないし、気持ちが分かるところかもしれません。
スイスでの安楽死を希望したのはいいとして、そこへ至るまでさまざまな障害が現れます。
どこかで気が変わるのではないか、中止せざるをえなくなるのではないか、そう思わせる演出が最後の最後まで続きました。
途中あまりにトラブルが続くので「拳銃で死んでやる」と言った時には、まぁ結果として同じだしそれもありかな…と思ってしまいました。
アンドレはかなりのワガママで厄介なおじいさんです。しかし、たまに良いところを見せる天然のズルさもあり、憎みきれない人物としてとても魅力です。
レストランのお気に入りのウェイターは何度も名前を呼ぶのに対して、知人のことはババア呼ばわり。
妻の赤いドレス姿を見て死を思いとどまった別の家族の話を聞き、最後の食事で赤いセーターを着るエマニュエルの心情。
父の残したサンドイッチを保存してみたり、捨ててみたり。
家族間ならではのおかしみなど、よく見ると多くのエピソードがさりげなく仕掛けられていて、コメディとしても本当に優れていると思いました。
本人はやりたいように生きて、幸せそうに見え、ラストシーンではなんとなくホッとしました。
いくら本人が希望しても、家族の理解を得るのは難しいことなのでしょうね。
個人的な話なので、あまり考えさせられる内容ではありませんでしたが、興味深いテーマでした。
フランソワ・オゾンの映画は配信で見られるだけ見ようと思います。