【U-NEXT】『アフター・ヤン』(2022)映画感想文・ディストピア映画と解釈

独特の世界観で描かれた、近未来SFです。

雰囲気に浸ろうと歩み寄りましたが、正直、難しかったです。

全然家族に見えないところがすごい

あらすじ

人型ロボットが一般家庭にまで普及した近未来。茶葉の販売店を営むジェイクと妻カイラ、幼い養女ミカは慎ましくも幸せな毎日を過ごしていたが、ロボットのヤンが故障で動かなくなり、ヤンを兄のように慕っていたミカは落ち込んでしまう。ジェイクは修理の方法を模索する中で、ヤンの体内に毎日数秒間の動画を撮影できる装置が組み込まれていることに気付く。そこには家族に向けられたヤンの温かいまなざしと、ヤンが巡り合った謎の若い女性の姿が記録されていた。

2022年製作/96分/G/アメリカ
原題または英題:After Yang
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2022年10月21日

感想(ネタバレ含む)

家族のような存在であるヤンが動かなくなり、そのメモリを巡る家族の話。

詩的でエモーショナル、映像美も優れていて、静謐、アート的です。

ヤンを買った家は、それぞれ人種の異なる家族構成。この世界では人間の他にテクノと呼ばれるアンドロイドや、クローン人間も存在しています。

こういう設定の時、感情を持つアンドロイドやクローンを作ることについて、この映画内世界の倫理観がどうなっているのかとても気になります。

『ロボット・ドリームズ』も同じで、人間に限りなく近いロボットを「売り買い」するようなことがあっていいのか? あまりまともな世界ではないよね? というイメージで捉えてしまいます。

故障しなければ自分よりも長生きして年も取らない機械を、友達や家族として、高いお金を払って買う価値観。そしてアンドロイドに対する責任。もう少し詳しく知りたかったです。

いっそ「アンドロイドを持つことが人間のステイタス」というくらい振り切ってもらえたら理解しやすいのですが…。

ヤンを買った理由が「中国人とは何か、とミカに伝えるため」というのはどうも嘘くさい。お兄さんロボットに子守をさせたいというのが本音のように思えます。

案の定、養女ミカはヤンにかなり依存しており、ヤンが動かなくなると、学校へ行かない、荒れるなどの問題行動が出てしまいます。

これは両親がヤンに頼ったツケが回ってきたように見えました。

ヤンはこの家族に愛情を持っていたようですが、この両親はどれだけヤンを愛していたのでしょうか。

両親は、ミカがごねるから仕方なく対応しているように見えます。

そして、あまりに静かに進む物語なので、ヤンを含む家族関係が薄く感じられてしまいました。

父親ジェイクはアンドロイドには抵抗がなく、クローンは嫌っていて、人種の違う娘を養女として迎えています。

その好き嫌いの線引きがどうなっているのかもよく分かりませんでした。

なんだかよそよそしく、冷え冷えとした家族関係。それが、この映画における近未来のイメージなのか、と少し暗い気持ちになりました。

ヤンの元のオーナーも「中古で買って静かすぎるから返品交換した」などと発言。人間の身勝手さが随所に感じられます。

ヤンには過去の記憶が残っており、エイダという恋人が存在していました。

彼女を忘れられず、エイダのクローンのエイダを探し出して付き合うというストーカー気質が怖いです。

ヤンの記憶の断片を見ても、なぜエイダのクローンが作られたのかはわかりません。そして誰が死んでエマが悲しんでいるのか、元のエイダはどうなったのか、重要なところがサッパリわかりません。

ここで感情移入したかったので、とても残念でした。

ヤンの記憶は映像のみであり、そこに感情は乗っかっておらず、そのまなざしは本当に温かな親愛に満ちたものだったのか? BGMをエモーショナルにして印象操作しているのではないか? と感じました。

結局ヤンは元に戻らず、博物館に展示。ここでも「研究のために」と夫婦は言い合っていますが、結構な額のお金が動いているようで、闇を感じます。

一見優しい世界に見えるのですが、結局人間は身勝手だと思いました。

全てはこの夫婦の身から出た錆ということで、この先はしっかりと自分たちの手で子育てをしてほしいです。

こんな寒々しい近未来が来ると嫌だなぁ…と少し暗い気分になった映画でした。