『関心領域』映画感想文・想像を絶する無関心さ

怖い…妻のヘートヴィヒがとにかく怖い!!

関心領域とはよいタイトルです。恐るべき感覚麻痺の妻。

自分と家族、生活向上以外には全く関心がなく、つまり自分さえよければそれでいいという人なんですね。

無関心であることの恐ろしさを非常に感じました。

あらすじ

ホロコーストや強制労働によりユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。

タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。

カンヌ国際映画祭ではパルムドールに次ぐグランプリに輝き、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した。出演は「白いリボン」「ヒトラー暗殺、13分の誤算」のクリスティアン・フリーデル、主演作「落下の解剖学」が本作と同じ年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したサンドラ・ヒュラー。

2023年製作/105分/G/アメリカ・イギリス・ポーランド合作
原題:The Zone of Interest
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年5月24日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

アウシュビッツ収容所の隣にある、司令官の家。

庭には花が咲き乱れ、温室やプールもある邸宅です。

しかし、隣からは常に銃声や叫び声が聞こえ、人を焼いているであろう煙が立ちのぼっています。

いくら素晴らしい家、環境であっても、この中で平然と暮らすことができるのか?

そんな疑問が浮かびます。

ヘートヴィヒの神経の太さ、というか、見たくないものを頭から排除する能力が狂気としか思えません。

よく見ると、家族の中でもこの状況に違和感を覚えている人が多いのです。

訪れたヘートヴィヒの実母は不穏さに突然出ていってしまいますし、娘は夜中に捕虜たちのためリンゴを置きに出かけます。

司令官の夫ですら、明るさはなく、常に陰鬱そうな表情をしていました。

植物を育て愛することはできても、塀の向こうで多くの人の命が奪われていることについては思いが至らない、その感覚の不均衡にモヤモヤが止まりません。

先日見た『胸騒ぎ』どころではない不快感がありました。

ヘートヴィヒ夫人を演じたのは『落下の解剖学』でパルムドールを受賞したサンドラ・ヒュラーです。

ある種狂気ともいえる無関心さを貫き、とても上手かったと思います。

ナチス・ドイツの崩壊後、この家族はどのような運命をたどったのか、ヘートヴィヒ夫人は何を考えたのか、知りたい気がしました。

ラスト、嘔吐する夫ルドルフと現代の収容所の様子が交互に映し出され、人物はフィクションであっても、収容所での大量虐殺は確かにあったことと認識させる演出が素晴らしかったです。

音がとにかく不穏であり、虐殺の場面は一切描かずに恐ろしさを描き出していることに、感服しました。

映画館で見ることにより、身に迫る恐怖を感るので、劇場での鑑賞を強くおすすめしたいです。

決して楽しい気持ちにはなれませんし、好きにもなれませんが、いい作品でした。

そして、厳しい現実であっても知ることが大切だと感じました。

最近では『マリウポリの20日間』『人間の境界』など、重そうなので少し避けてしまい、見られる時間や場所を逃してしまったことが悔やまれます。

今後の鑑賞作品選びを考えていこうと思います。