『パーフェクトブルー』感想文・未麻の転身と心の戦い

アイドルから女優への転身を機に、虚構と現実の境目を見失っていく主人公・霧越未麻を描いた伝説のアニメ作品。

映画『パーフェクトブルー』は、1998年に今敏が監督した、サイコサスペンスアニメです。竹内義和の小説「パーフェクト・ブルー完全変態」を原作とし(一部設定のみの活用で原作と内容は異なる)、江口寿史がキャラクター原案を担当しています。

4Kリマスター版で劇場公開されたので観てきました。平日の昼間でしたが、かなりの席が埋まっていました。


あらすじ

人気はそこそこのアイドルグループを脱退し、女優に転身を図った主人公・霧越未麻。事務所の後押しでテレビドラマの端役を得ますが、アイドル時代には考えられなかった過激なシーンを演じることになります。

未麻は、環境の変化に困惑する一方で、転身を認めない熱狂的ファンから脅迫めいたFAXを受け取るようになります。やがてその行為はエスカレートし、未麻は次第に身の危険を感じ始めます。

アイドルとしての過去の自分と、駆け出しの女優として不本意な仕事も受け入れざるを得ない今の自分。両者の狭間で激しく心が揺れ動きます。

やがて虚構と現実の境目が曖昧になり、混乱を極めていく未麻。そして、彼女の仕事の関係者が犠牲となる殺人事件が起こっていきます。


あらすじから推測されるように、かなり過激な内容です。

私は、設定としての殺人事件は許せるのですが、未麻の女優転身後のストリップ〜レイプの撮影場面が不快に感じましたし、果たして必要なのか? という疑問がありました。

描いているということは必ず意味があるはずですが、それが過激さを演出し、興味を引くため以上に重要なものだったのだろうか? もっと他に表現のしかたがなかったのだろうか? というのが、正直なところです。

「ここで決定的にアイドルとしての未麻が消滅した」と言いたかったのだろうと思います。あえて不快なレベルまで踏み込んだのはそのためではないかと想像しました。

他にも、絵柄として、未麻以外の人物の作画がかなり気持ち悪いというのも不快なポイントです。未麻にしても微妙なアイドルのため、最高に可愛いというわけではありませんし(キービジュアルは可愛い!)、チャムの他のメンバーはさらに微妙…ファンに至っては気持ち悪い男の子ばかりです。

鏡に映る未麻など、多分もっと可愛く描けるはずなのに、あえて不穏で不快な演出をしているのだと感じました。

ファンに関しては、娘に言わせると「アイドルからファンはああいう風に見えているってことじゃないの?」ということで、その鋭い視点にゾッとしました。

猟奇的な殺人事件を経て、過去(ルミちゃんとバーチャル未麻)との決別をした未麻ですが、ラストシーンはさまざまな捉え方がされているようです。

私の考えは…

・バックミラーを見るシーン。もう鏡に映っているのはアイドルの未麻ではない、自分そのものなのだという確認ではないか。

・未麻は女優として順調に活躍しているため、苦しい時期を乗り越えて、強くなったと思える。

・「私は本物だよ」は「ルミやバーチャル未麻は本物ではない」という意味でもあり、過去も内包した存在として新しい未麻となっている。

・ラストで精神が病んでいるとは解釈しない。

というものです。

総じて、霧越未麻の成長物語だったのではないかな、というのが感想です。非常に仕掛けや意図が多く施されていて、面白い…というか興味深い作品でした。

YouTubeで今敏監督が解説している動画を見ると、驚くような工夫がたくさん凝らされていることが分かります。窓が意味するもの、セル画の数、グッピーの意味、など詳しく語られています。

興味のある方は「未麻的部屋」で検索してみてください。

良い悪いは別として、今日では作ることのできないであろう、本当にすごいアニメでした。若くして亡くなられた今監督、本当に惜しまれますが、残された作品をこれから楽しませていただこうと思います。