『バーナデット ママは行方不明』感想文・心と家族の再生の旅

『TAR/ター』がとても印象的だったケイト・ブランシェット。今作はそれよりも前2019年に公開された作品です。4年も経って今頃日本で公開、どうなのかな?と思いましたが、予想した以上に良かったです!

コメディと思って見始めたら、バーナデットが自分を取り戻し、家族が再生する物語で、とても感動しました。

シアトルに暮らす主婦のバーナデットは、将来有望な建築家だったにもかかわらず、夢をあきらめ、夫と娘のために20年を費やしてきました。

人付き合いができず、隣人とのトラブル、ママ友たちからの孤立など、心に問題を抱えています。娘の強い要望で南極旅行が計画されますが、旅先で人と関わることに恐怖を感じ、混乱します。

やがてさまざまな緊張が極まり、彼女は逃げ出します…。


バーナデットが人と会いたくないとサングラスにスカーフで顔を隠して外出するところ、とてもよく分かります。

コメディのように描かれ、見方によっては滑稽でもあるのですが、本人はいたって真剣に悩み、もがいているのです。

生きづらさは目に見えないので、人からは分からないものです。

「ママは行方不明」とは、もちろん自分自身を見失ったという意味もあります。家族のためにと20年間尽くし、芸術家としての本来の自分を封じたことが、結果として家族を「漂流」させることとなってしまいました。

経済的には豊かでも、イコール幸せではない。それが贅沢な悩みだと言う人もいますが、悩みはそれぞれの人のものであり、それぞれに切実なものです。

前半はバーナデットの苦悩をコミカルに、愛すべきキャラクターとして、ケイト・ブランシェットが好演していましたが、「TAR」に通じるものをとても感じました。

物語は意外な方向に進んで、バーナデットはトイレの窓から逃げ出して、なんと南極に行くのですが、この展開はさすがに無理があるのでは? と感じました。

スマホもお金もパスポートも何もなく、隣のおばさんの変な服をもらっただけで、どうやって行くのでしょう。驚きの展開です。

不自然に思えた設定も、隣人の服…もみの木柄のセーターをケイト・ブランシェットが着ると袖が短くなっているのが妙にリアルで、こんなところは凝るんだ〜と面白かったです。

共感のできる「変わり者」としてバーナデットを見ていましたが、やがて家族の再生、自分自身を取り戻す、というテーマが見えてきて、何度か涙が出ました。

挿入歌のシンディ・ローパー「タイム・アフター・タイム」も歌詞がぴったりで、娘のビーと車の中で熱唱するところはいいシーンでした。

逃げても探しに来てくれる家族がいるのは幸せなことです。「20年は無駄ではなかった」そんな風に私も思いたいものです。心温まるいい映画でした。