『マリア・ブラウンの結婚』感想文・業が深い映画でした

男性たちを破滅に導く魔性の女をファム・ファタールと言いますが、人間関係が破壊されるサークル・クラッシャーのむしろ逆!? の物語。かなりの衝撃内容でした。

1982年に37歳で早逝したファスビンダーの33、4歳ごろの作品。

概要

監督

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

キャスト

ハンナ・シグラ (マリア・ブラウン)

クラウス・レーヴィッチェ (ヘルマン・ブラウン)

イヴァン・デニ (カール・オズワルド)

エリザベト・トリッセナー (ベティ)

製作年・国

1979年 西ドイツ

上映時間

120分

あらすじ

1943年のドイツ、ベルリン。第二次世界大戦の後期、マリアとヘルマンは爆撃下で結婚式を挙げた。しかし一日半でヘルマンは戦場へと向かい、行方不明となる。

マリアはホステスの職を得て、夫の帰りを待つが、ヘルマンは戦死したと告げられる。マリアはバーの客であった黒人兵ビルの愛を受け入れ妊娠する。

ある日マリアとビルの元へ、戦死したはずのヘルマンが帰還する。マリアは酒瓶でビルを殴り殺してしまう。ヘルマンは彼女の罪を被ってビル殺害を自白し投獄。マリアは夫の出所を待ち、生活の基盤を準備するために働くことを誓う。

マリアは列車の中で繊維業者のオズワルトと知り合い、英語を武器に秘書兼愛人として戦後復興の中を成り上がっていく…。

結末あり感想

敗戦後の混沌から、恵まれた容姿を武器に成り上がっていく女性、マリア。

誘惑、愛人、殺人、堕胎等、初めは生活のため、やがては生還した夫との生活のために、悪びれもせず何でもやってのけます。

マリアにはただひたすら自分の理想を追い求める清々しさがありましたが、一方で、道徳的な視点から嫌悪感も抱きました。

鑑賞中は彼女をどう評価していいのか、生きつ戻りつの気分でした。

生きる力やたくましさと同時に、手段を選ばない冷徹さも持ち合わせており、マリアという女性の業の深さを見せつけられ、圧倒されています。

途中からは、彼女の生き方に、きっと報いがあるのだろうという確信を持ちました。その結果は…絶望からの爆死!

よくこれほどの「ちょうどいい」ラストを作り上げたと、ファスビンダーの手腕を感じました。申し訳ないけれど、落としどころが本当にちょうどよくて納得。鑑賞後感も良かったです。

冒頭、爆撃の中で始まった結婚生活が、10年後のガス爆発での終わるという対比も見事です。

実は夫とマリアの愛人が契約を交わし、一人の女性マリアを共有していた、というのは予想外でした。男性を生きる手段としてさんざん利用し尽くしたマリアが、実は男性たちからモノとして見られ、扱われていたという痛烈な皮肉が効いています。

一方で、ハンナ・シグラの熱演がすばらしいため、陰鬱になりそうな内容も、妙に明るく軽やかに感じられました。

夫(旧)が生還したのを知るやいなや夫(新)を殺害、妊娠を喜んでいたのに、あっという間に堕胎(老医師とも関係があった様子)、殺人の罪は夫に背負わせてケロッとしているような女性。

それでも、どこかで幸せを掴んでほしいという気持ちにさせられたのは、ハンナ・シグラの華やかさ、美しさにあるのでしょう。

関係ありませんが、屈強な黒人男性のビルを、後ろから瓶でポコっと殴ったぐらいで殺害できるのか?というのが、少し疑問でした(笑)

まとめ

叶わない結婚生活を追い求め過ぎた、そのあげくの悲劇。マリアの生きざまを見せつけられて、後からジワジワと毒が回ってくるような気持ちになりました。

同時上映で同じくファスビンダー監督の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を観たため、濃厚過ぎてその日はなかなか寝られませんでした!