『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』映画感想文・こちらも嘆き節が炸裂

今年フランソワ・オゾン監督の『苦い涙』(2022)を観たので、本家本元のファスビンダー版『苦い涙』を今回鑑賞しました。

若い愛人(同性)に去られ、身もだえして苦しむ主人公。そのシーンがこちらではどう描かれているのか見たい! 目的はただその一点のみでした。

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概要

監督・脚本

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

キャスト

マルギット・カルステン(主人公ペトラ)

ハンナ・シグラ(若き愛人カーリン)

イルム・ヘルマン(助手マレーネ)

製作

1972年製作/124分/西ドイツ

あらすじ

ペトラはファッションデザイナー。2度目の結婚に失敗して落ち込んでいた。助手のマレーネをこき使いながら、アトリエ兼アパルトマンの部屋で暮らしている。

ある日、彼女の元に、友人が若く美しい女性カーリンを連れてやってくる。カーリンに一目惚れしたペトラは、彼女と同棲を始める…。

結末あり感想

オゾン監督の作品を観ていたので、必然的に比較しながらの鑑賞となりました。

ファスビンダー/ オゾン

女性同士   / 男性同士

デザイナー  / 映画監督

痩せた女性  / 太った男性(ドゥニ・メノーシュ)

女性のマネキンがからまったオブジェを飾る / アミールの拡大写真を飾る

124分     / 85分

どちらかというと、私はオゾン監督の方が面白く感じました。主人公の映画監督がファスビンダーを表現していると感じられて興味深かったし、より喜劇寄りで、笑える場面が多かったからです。

オゾンの時間がかなり短いのですが、それでも内容が薄かったとは思えず、反対にコンパクトにまとまっていて、とても見やすかったです。

ファスビンダー版の何が長かったかというと、カーリンが現れて、ペトラが舞い上がり、口説くシーン。おそらくオゾンもそこが長いと感じて、原作をカットしたのではないかと想像しました。

後ろでマレーネがずっとタイプライターをイライラしながら打っており、その音で眠気が訪れました。

助手のマレーネはやはり全く喋らないのですが、存在感が抜群でとても良かったです。全体が引き締まり、ラストのキレて出ていくシーンも最高でした。

「本作でマレーネを演じる者に捧ぐ」と冒頭に出ているため、この役は相当に重要だと思われます。

オゾン版の助手カールもそうでしたが、この助手の役が物語を傍観している者、つまり観客の我々かもしれません。

恋に溺れた主人公の滑稽さ、醜さを、無言無表情で見つめる使用人は、我々が、最も共感できる人物です。

そう考えると、ラストでの使用人たちの行動が理解できました。もう、付き合いきれんわ!という感じではないでしょうか。

また、最も見どころであった、嘆きのキレ芸は、ペトラの暴言も相当なもので、いい勝負でした。

母親や娘に暴言を吐いて、全くひどすぎると感じましたが、ここが観たいポイントだったので、少し眠かった私も、しっかり覚醒して注目しました。本当に面白くて、素晴らしかったです。

酒を飲んでキレるだけキレたら、後はつきものが落ちたように急に物分かりが良くなる、人間の身勝手さ、浅はかさなど、これほど極端ではないにしろ誰もが持っている性質。笑うだけではなく、身につまされる部分もありました。

悲劇は喜劇であると、つくづく感じる映画です。オゾン版と共に、ファスビンダー版もおすすめしたいです。