『さらば、わが愛 覇王別姫』感想文・壮絶な愛憎劇に身もだえ

30年前の作品が4Kとなって劇場公開ということで、観てまいりました。

初見でしたが、想像をはるかに超える、ものすごい映画でした。

完全にやられてしまい、もう3日ぐらい経ちますが、まだ余韻醒めやらずです。

「109シネマズプレミアム新宿」にて4Kで鑑賞

少し足をのばせば一般の映画館で観られたのですが、家から近い、上映回数が多い、3時間近くあるからいい椅子で観たい、ということで贅沢しました。

私は障害者手帳を持っているので、割引していただき、A席4000円です。

以前マリオブラザーズを観に来た際に「早く来るべし」と学習したので50分前に入りました。多分一時間前から入場できるはずです。

ロビーはホテルのラウンジのような場所。ポップコーンとドリンクはサービスのため、キャラメルと塩のハーフ&ハーフ、カフェオレをいただき、座り心地のいいソファを選んでワクワクしながら待ちました。

ちなみにポップコーンは塩よりキャラメルがおいしいです!

人も少なく、時間を持て余すこともなく、のんびりできて大変良い時間を過ごせたので、ギリギリに来るのはもったいないです。

「109シネマズプレミアム新宿」は時間に余裕を持って行きましょう。

この劇場では、覇王別姫の35ミリフィルム版も上映されるということです。

質感が違い、よりエモーショナルなのでは?と見比べてみたい気持ちが湧いてきました。

今回は古い作品ですし、ネタバレありで書きます。

蝶衣(レスリー・チャン)が何と言っても素晴らしい

何と言っても、レスリー・チャンの美しさと色気。京劇の化粧を施していても表情から思いがひしひし伝わってきました。

仕草から何から、美しいと一言では言い表わせない、かもし出す雰囲気に心が奪われました。

あまり言葉数の多い蝶衣ではないですが、小楼が菊仙と結婚すると言った時に「一生僕のそばにいて」と心情を吐露するシーンがあります。

ここが唯一、正直な思いを打ち明けた場面だった、にもかかわらず、小楼は男性を恋愛対象としていないわけですから、受け入れてもらえるはずもありません。

始めから実るはずもないという、この切なさ。前半の子ども時代が長く描かれていて、見ていて苦しいのですが、それが後半に猛烈に効いてくるという、組み立ての巧みさを感じました。

男性に対する悲恋の話であり、再会するのが11年ぶり、共演するのが22年ぶりという中でのラストシーン。

冒頭でさらっと語られますが、蝶衣は会っていない時もずっと小楼のことを想っていたということになります。

再会したこの時を待っての自害…というのが凄まじい情念です。

何年ぶりかを正確に思い出せない小楼、微笑みながら正しい年数に訂正する蝶衣。うわ〜この苦しさと覚悟って何なの〜!?と悶え苦しむ私でした。

小楼はあれでいいのか!?問題

蝶衣が繊細なのに対して、小楼がかなり雑というか、無謀で行き当たりばったりな人物に見えます。

良く言えば豪快で他者のために自己犠牲を惜しまない人間とも言えますが、私は、この男性がそんなに魅力的なのだろうか?と少し疑問でした。

モト冬樹に似ていて、少しふざけたようにも見える表情がまたしゃくに障るというか「お前のせいで〜!」と言いたくなる絶妙な顔。

父親を知らない蝶衣は、小楼に対して父性を見ていたのかもしれません。

小楼の無神経さや弱さが仇となり、蝶衣と菊仙を苦しめたのですから、罪な男性です。

ただよう小物感…どう見ても蝶衣の人間性が高尚に見えて、釣り合っていないような気がして「あれでいいのか?」と感じずにはいられませんでした。

菊仙の業も相当に深い!

他の方のレビューを見ていて、菊仙について同情的な見方があり、感じ方は人それぞれだなぁと思いました。

菊仙は頭が良く、かなり打算的な女性であり、それゆえ蝶衣に対して猛烈に嫉妬していたと感じます。

なぜ自殺したのかというと、蝶衣への腹いせ、抗議の究極の姿だったのではないでしょうか。

小楼が離縁すると言ったのも、菊仙は賢い女性だったため、真意がわかっていたような気がします。

蝶衣ほどの純粋な愛情が自分にない、という敗北感が極まっての行動と見て取りました。

蝶衣と心を通わせる場面もありました。憎み合いながらも、母性を求める蝶衣と子を失った菊仙が一瞬支え合います。

キャラクターとしての一貫性に欠けるかもしれませんが、時としてそんな風に揺れるさまが非常に人間らしく、味わい深かったです。

この菊仙という女性も悲劇の人物であり、悪女ではありますが嫌いになれない哀れさ、切なさを感じました。

まとめ

感想を書きながら、表現しきれない自分の語彙力を恥じるばかりです。

まぁ、とにかく、やられまくって呆然とする映画でした。

3時間近くを全く長く感じない、芸術作品です。

ご興味を持たれた方は、ぜひ劇場でご覧いただき、打ちのめされてください。

本作は1993年第46回カンヌ国際映画祭で『ピアノ・レッスン』と共にパルム・ドール受賞。

『ピアノ・レッスン』もまた身もだえするような愛の物語ですが、私は個人的に『さらば、わが愛 覇王別姫』推しです。

もう一回ぐらい見ておきたいなぁ〜と画策中です。超おすすめいたします!