この世界観、好きかも!という方はぜひご覧になってほしいです。酷評なんて言われるほど悪くはなかったですよ、むしろ面白かったです。上段左から、先輩・ルームメイト・ルームメイト・主人公ユマ・公爵夫人。
しかし、上映される映画館は日本で3劇場&1週間。12/1には終わってしまうのです。公開時、興行的に微妙だったことがうかがえますが、先入観は持たずに挑みます。
主人公ユマ(エマ・ロバーツ)がある朝目覚めた場所は、孤島の治療施設。公爵夫人(ミラ・ジョボビッチ)の元、アッパークラスの娘たちが食事やメイク、ヨガなどのレッスンを受けて完璧な女性を目指している。美しく着飾りパラダイスのような暮らし。しかしエマはそこにいることを拒み、脱出を試みるうちに、施設の本当の目的を知ってしまう。
この映画の良さはそのビジュアルに尽きるでしょう。白いドレスに拘束具を思わせるパーツが彼女たちの置かれている環境を表しています。楽園のようでありながらそこから逃げることは決してできないのです。
スタンリー・キューブリックの「時計じかけのオレンジ」の女の子版のような衣装です。そういえば「時計〜」ではドラッグ入りのミルクを飲んでいましたが、今作にも似たようなものが登場しました。オマージュかもしれませんね。そう思って少し調べてみましたら、インタビュー記事がありました。
「私の父は10代の映画クラブを持っていて、母は私が14歳の頃にブレードランナーと時計じかけのオレンジをプレイしてくれました。」なるほどですね!
まずは冒頭の結婚式のシーンが美しくて目を奪われました。衣装・美術にとても力を入れていると感じます。ただ美しいのではなく、独特な口紅の色であったり、装具であったり、パフォーマンスであったりが、現代との違いを表現しているようです。
この雰囲気は何だろうなぁと思ったのですがブレードランナーのような「昔っぽい近未来」でしょうか。退廃美? 「ミッドサマー」的でもないし、漫画・アニメの「宝石の国」が闇の深さ的にも近い気がします。あの雰囲気も独特で素敵なんですよね…。
95分という比較的短い時間でストーリーが展開するので、もう少しこの女の子達の花園のようなパラダイス感が見たかった、というのと、ルームメイトとの親交が深まるのが唐突だったかな、というのがありました。心理描写にもう少し厚みがあれば評価ももっと上がったかもしれません。
後半、白い世界から暗転して、施設の闇が暴かれていくのですが、単純な脱出劇ではなく、えーっ!と思うような展開となります。私は鑑賞前に、もしかすると「わたしを離さないで」のような臓器移植のための施設かも…と予想していたのですが、それは外れました(外れて良かったです)。
しかし、恐ろしい展開ではありました。ユマが終始めちゃくちゃ強情で人の言うことも聞かないし、暴れるしくじけないし、反骨精神すごすぎて「つえ〜〜」と感心しました。母親の言いなりになるくらいなら人も殺すという、すがすがしいほどの自立心です。お嬢様にしておくにはもったいない素材でした(笑)
それを考えると結末はまぁ納得です。冒頭の結婚式のシーンに戻るわけですが、多くの犠牲を払いながらも、自分の信念を貫いてユマは自由を手に入れるわけです。しかしその自由の先には、おそらく大きな困難が待ち受けていそうな不穏な空気も少しありました。
あとひとつ気になったのは男性がダメダメな人ばかりだったこと。女性ばかりが美しくて強力でした。監督は? と調べますと、アリス・ワディントンという女性。2022年にLGBTQのカミングアウトをしたということで、ジェンダークィアだそうです。何か理由があるのかないのかは不明ですが、男性の影が薄い映画ではありました。もしくは、男性女性をバランス良く配置するような感覚を取り払ったのかもしれません。
そんなわけで、ファンタジックなSF「PARADISE HILLS」配信などがこの先ありましたら、見てみてくださいね!