『Chime』映画感想文・狂気と日常の境界線を歩くような作品

起承転結のはっきりしたホラーではありませんが、じわじわ迫り来る不穏さがなんとも言えず気味悪く、わずか45分の作品ながら、その世界観にどっぷり浸りました。やっぱり一番怖いのは人間ですね。

情緒の危ない方はお気をつけください…ね

あらすじ

料理教室で講師として働いている松岡卓司。ある日レッスン中に、生徒のひとりである田代一郎が「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」と不思議なことを言い出す。事務員のあいだでも田代は少し変わっていると言われているが、松岡は気にせず接していた。しかし別の日の教室で、田代は「自分の脳の半分は機械に入れ替えられていてる」と言い出し、それを証明するために驚きの行動に出る。これをきっかけに松岡の周囲で次々と異変が起こり始め……。(『映画.com』より引用)

2024年製作/45分/R15+/日本
配給:Stranger
劇場公開日:2024年8月2日                        

感想(ネタバレ含む)

たいてい、実際にあり得ないと思いながらホラー作品を見たりしますが、今作はもしかすると本当に起こり得るかもしれないというところまで、恐怖が迫ってきました。

田代一郎から始まり、波紋のように伝染、初めは比較的?まともであった松岡も少しずつ壊れていきます。

我々はとりあえず善良な一市民として暮らしているわけですが、足を踏み外してどのような恐ろしい存在にもなり得るのだという怖さを感じました。

特に、松岡がレストランへの転職を望んで面接を受けるシーンが2回ありましたが、1回目と2回目の印象の違いに「いつの間に田代はこれほど変わってしまったの!?」と驚きました。

何かをきっかけに、自分の中の闇の部分が引き出されて、染みのように大きくなっていくような感じです。

狂気は遠く離れたところではなく、意外と手の届くところを漂っているのかもしれません。

料理教室の外には頻繁に電車が通っていて(総武線だと思います)、狂気のすぐそばに日常があるという怖さをひしひしと感じました。

道ですれ違う人や映画館で隣り合わせた人、そしてひょっとすると自分だって、豹変する可能性はゼロではないと想像すると、数十年比較的まともに生きて来られたのが不思議な気すらしてきます。

もしかすると、個人個人の心の闇をありのままに現実化すれば、このような感じかもしれません。

意外と死にたいとか殺したいとか、決して実行には移さないけれど、誰にも分からないところでふっと恐ろしいことを考えてしまっているのが人間なのでは?という気もします。

心の闇を具現化したのが今作なのかなと感じました。

吉岡睦夫さんが、淡々と当たり前のように足を踏み外していく主人公を怪演されていて、とても良かったです。

公開されてからかなり経ちますが、スクリーンはほぼ満席。

決して分かりやすい映画ではありませんが、このような作品が評価されて多くの観客を集めていることがとても嬉しく感じました。

『蛇の道』を見て、黒沢清監督の作品はあまり合わないかもしれないと思っていましたが、鑑賞数が圧倒的に少ないので、今後配信で見ていこうと思います。

次回作『クラウド』が9月に控えていて、主演菅田将暉ということでとても楽しみになってきました。吉岡睦雄さんもまたご出演ですし、公開日に見に行きたいと思います。

本当に奇妙な後味の映画でした。ちょっとロケ地に行ってみたい気がしてきたので、写真が撮れたら追加しようと思います。

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