『コット、はじまりの夏』映画感想文・親の資質について考えました

説明はなくても、登場人物たちの気持ちがひしひしと伝わってきて、自然と感情移入できました。

ひと夏とはいえ、キンセラ夫婦の親としての資質が素晴らしく、子育ての勉強にもなる作品です。

厳しいのも愛情。特にショーンおじさんの不器用な愛が私には刺さりました。

コルム・バレード監督は長編初監督だそうで、鑑賞前は、お手並み拝見ぐらいの軽い気持ちでいましたが、本当に恐れ入りました。

この映画、大変な掘り出し物です。

あらすじ

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中で居場所を見いだせず、寡黙に成長した少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の農場で過ごすことに。

はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、夫婦の愛情をたっぷりと受け、次第に生きる喜びを感じるようになる。

概要

2022年製作/95分/G/アイルランド
原題:An Cailin Ciuin
配給:フラッグ
劇場公開日:2024年1月26日

監督・脚本

コルム・バレード

キャスト

キャサリン・クリンチ(コット)

キャリー・クロウリー(アイリン・キンセラ、預かり先夫婦の妻)

アンドリュー・ベネット(ショーン・キンセラ、預かり先夫婦の夫)

マイケル・パトリック(ダン、コットの父親)

感想(ネタバレ含む)

実の両親があまりにもひどい…というのは置いておいて、預かり先のキンセラ夫婦が本当に素晴らしいです。

彼らにはかつて子どもがいたため、(アイリンなどは特に)コットの世話がとても手慣れています。

何も語られませんが、そこに「亡き息子を思い出してしまう悲しさ」と「子どもの世話をする懐かしさと喜び」の入り混じった気持ちが表れています。

正確に言うと、後からその事実が分かってくるのですが、とても腑に落ちる流れでした。

コットの成長とは別に、キンセラ夫婦がコットを通して自分たちの喪失感を乗り越える側面もあり、物語にさらなる深みがを与えています。

そして、最初に書いたように、この夫婦の親としての資質が素晴らしいのです。

さまざまな経験を積ませて、温かく優しく、だけではなく、時には厳しいことも言う姿勢です。

初めは無口だったショーンの気持ちもよく分かります。

コットを預かることで妻が息子のことを思い出し、つらい思いをするのではないか。

名前を呼んだり構いすぎると、情が移ってしまいそうで怖い。

…でもコットが可愛い!

そんな思いが言動からあふれていて、想像するだけで泣けてきました。

キービジュアルは、自宅へ送られたコットが夫婦の元へ駆け出すシーンです。

コットはなぜ帰ろうとする夫婦を追いかけたのか?

連れて帰ってほしいと見るのが普通かもしれませんが、寡黙な少女コットが、夫婦に感謝の気持ちを伝えるために追いかけたという見方もできます。

私は両方の意味があるのではないかな、と感じるのですが、その辺りのどちらとも取れる微妙な表現も本当に巧みです。

また、ラストシーンの後はどうなるのか、はっきりと描かれていないのも、含みがあっていい終わり方でした。

ただ、ラストに回想シーンを挟むのはちょっぴりやり過ぎな感じも…感動しながらも、泣かせにきているのが見え隠れしました。ずるいよね〜。

キンセラ夫婦の元へ行けば、間違いなく幸せになれるはずですが、実の親から簡単に手放されてしまえば(言っても実の両親ですから)コットは傷つくでしょう。

それにあのギャンブル依存の父親も、子どもを大切にできないくせに手放すのは嫌なタイプに見えます。

ここは大人たちで「ひと揉め」してもらって、コットの意思を尊重した末に、キンセラ夫婦の元へ引き取られていくのがいいかな…などとこの先の物語を予想しました。

仮に元の家で暮らすとしても、コットは愛情をたくさん受けた夏休みの記憶を心の栄養として暮らしていくはずなので、変化は現れるはずです。

何にしても子育てには愛情と承認が必要だとつくづく思いました。

主演のキャサリン・クリンチさんが、寡黙な少女…というか場面緘黙かな、という気がしますが、難しい役どころを見事に演じていて、また本当に可愛らしくて、将来が楽しみです。きっといい俳優さんになりますね。