終始不穏で不快度の高い作品です。これが面白いと感じるのですから、人間って不思議だなぁと思います。
ロルカン・フィネガン監督の作品は、お正月に『ノセボ』を見ました。
「違和感のすごい人」が出るという共通点はあったものの、テイストはかなり違います。
ノセボは根拠が明らかになる展開でしたが、こちらはそれがぼかされていて、浮遊感のような余韻が残りました。
目次
不動産屋に紹介された住宅地から抜け出せなくなったカップルの運命を描いたサスペンススリラー。新居を探すトムとジェマのカップルは、ふと足を踏み入れた不動産屋で、全く同じ家が建ち並ぶ住宅地「Yonder」を紹介される。内見を終えて帰ろうとすると、すぐ近くにいたはずの不動産屋の姿が見当たらない。2人で帰路につこうと車を走らせるが、周囲の景色は一向に変わらない。住宅地から抜け出せなくなり戸惑う彼らのもとに、段ボール箱が届く。中には誰の子かわからない赤ん坊が入っており、2人は訳も分からないまま世話をすることに。追い詰められた2人の精神は次第に崩壊していき……。
2019年製作/98分/R15+/ベルギー・デンマーク・アイルランド合作
『映画.com』より引用
原題:Vivarium
配給:パルコ
劇場公開日:2021年3月12日
冒頭で示唆的にカッコウの托卵の映像が流れます。
最後まで見ると、このカップルが赤ん坊を托され、育てさせらせたのだな、ということがわかります。
一体誰が赤ん坊を托したのかというと、正体は明かされませんでしたが「人間と見た目が同じ、別の生命体」のようです。
宇宙人か地底人か、海底人か…人間の世界と地続きのように見えるので地底人かもしれません。
彼らは、不動産を見に来た人間のカップルを町に閉じ込め、地底人(仮)の子どもを育てさせます。
子どもは育て主を四六時中観察し、真似をして、何倍ものスピードで大人に成長します。
大人になって育て主が不要になれば解放(=死)するというシステム。これが綿々と続いていると思われるのですが、なんとなく、別次元で何組もが同じ目に遭っているような気がしました。
不気味なのは、彼らに悪意が全く感じられないこと。
カッコウのように、命をつなぐための方法として、彼らに備わっている術なのでしょう。
連れて来られたら最後、結果的にはどうやっても元の世界には戻れないんだ…という絶望感が最後にありました。
脱出しようと、トムとジェマが四苦八苦したことが、全て無駄だったのです。なんとやるせない…でも嫌いじゃないです(笑)
人生は理不尽なことの連続、そういうこともあるよね…(ないない)と、少し安心する部分もあったりします。
最近見た『胸騒ぎ』がちょっとそのような感じでした。あれもびっくりするほど救いがなく、悲惨なラストでしたが、なんとなく癒やされました。
今作で興味深かったのは、精神が崩壊するのがトムの方がかなり早かったということです。
ジェマが比較的気丈で、地底人の子どもを世話したり、平静を保っていたのは、女性であり、母性を発揮したことによる強さだったのかもしれないと思いました。
それに対してトムは嫉妬、単独行動、穴掘り、と、大人げない行動が続き、次第に精神がおかしくなってしまいましたが、子どもを持つとそれに近いことが夫婦間で起こりがちでは?と、ふと考えて恐ろしくなりました。
そして、あの子どもがジェマのことはママと呼ぶのに、トムのことをパパとは呼ばなかったのも、妙に納得というか、印象的でした。
まぁ結果は見事なバッドエンドで、二人とも同じ運命だったわけですが…。
この監督の映画は今後も見逃せないなと思える一作でした。