ケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』がとても良かったため、さかのぼって一作目から鑑賞することにしました。
リゾート、じゃない方のマイアミの湿地帯。何もない場所で、何者でもない男と女の逃避行…しかし全てがショボくてサエないのです。
どこへも行けない者たちの悲哀が綴られた映画。
味わい深い作品でした。このどうしようもなさ…かなり好きです。

目次
「ウェンディ&ルーシー」のケリー・ライカート監督が1994年に発表した長編デビュー作。
南フロリダ郊外の平屋建ての家で暮らす30歳の主婦コージーは、退屈な毎日に不満を募らせていた。
空想癖のある彼女は、人のいい夫婦が大きなステーションワゴンでやって来て自分の子どもたちを引き取っていくこと、そして彼女自身は新しい人生を始めることを、延々と夢見ている。
コージーの父ライダーはマイアミ警察署の刑事だが、酒を飲みすぎて銃をどこかに置き忘れてしまい、見つかるまで停職を食らっている。
ある日、地元のバーへ出かけたコージーは、うだつの上がらない男リーと出会い親しくなるが……。
1994年製作/76分/アメリカ
映画.comより引用
原題:River of Grass
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム
劇場公開日:2021年7月17日
小太りの女と落ち武者ヘアーの男。妙な生々しさを感じる二人です。
逃避行、ロードムービーといえども『俺たちに明日はない』の派手さや美しさも、ジム・ジャームッシュの映画のようなスタイリッシュさやシュールさもありません。
なんだかモッサリしていて、ショボくて、ダサい。それこそが魅力ともいえそうです。
そもそも、逃避行と言ったって、事件を起こしたわけでもなく、街からも出られず、モーテルにこもっていただけ。
女(コージー)は日常に嫌気がさして、常にふてくされて捨て鉢、男(リー)はマザコンの小心者です。
リーの小物感がとてもリアルで、どうしようもない役立たずであり、映画の準主役にするのももったいないくらいの人物に描かれていましたが、これはラストへの伏線だったように思います。
コージーにおいては「いい夫婦が現れて子どもを連れて行ってくれないか」という、わが子さえ可愛いと思えない、鬱積した気持ちと閉塞感は、心身喪失にも近いように感じました。
人を撃って殺したというのも勘違いで、実は何者にもなっていなかったことにコージーは失望し、最後には本当に人を撃ってしまいます。
この自暴自棄で破滅的なラストの展開には、かなり驚きました。
銃を投げ捨てた場所は、刑事の父親が銃を無くしたのと偶然にも同じ場所であり、街の狭さ、窮屈さをうまく表現していたように思います。
日常の蓄積に蝕まれ、苛立ちが爆発して、最後には本当の逃亡の旅へと一人で向かうコージー。
ラストになって初めて、自分の強い意志で動いたという皮肉が効いています。
何が彼女をそのようにしたのか、冒頭の生い立ちを思い出しても、決定的なものはありません。
おそらく、監督の心情が色濃く投影されたのではないかと推測します。
30年を経て『ファースト・カウ』のように巧みな映画を撮るようになったケリー・ライカートですが、地味さレベルにおいては、あまり変わらずでした。
これから、1作ずつ楽しんで鑑賞していきたいと思います。おそらくどんどん上手くなっていくのでしょうね。
次は2作目『オールド・ジョイ』です。これも地味そう…(笑)