『男と女』(1966)映画感想文・知らなかった…こんな映画だったの!?

午前十時の映画祭にて鑑賞。ラブシーンばっかりの映画かと思い、そういうのはちょっと苦手なので今まで敬遠していたのです。だってキービジュアルが裸の男女なのですから。

当時中学生だった高橋幸宏少年が、この映画を観るために映画館に18回も通ったという逸話がありますが、中学生でこの映画にハマるとは、さすがのセンスです。

そういえば高橋幸宏さんを2回ほどお見かけしたことがあります。東京コレクションの会場と、コンサート帰りの渋谷で、車で通り過ぎるところ。

2回目、誰かが「ユキヒロさんだ〜」と言うので見たら、にこやかに車から手をふる姿が見えました。運転は奥様かな…リラックスした雰囲気で、最高にお洒落でカッコよかったです。

音楽やファッションでこの映画から多大な影響を受けたという話を聞き、今年1月に亡くなられた幸宏さんに思いを馳せつつ鑑賞しました。

話としては難しくはなく、配偶者を失った男女が、子どもの寄宿舎の関係で知り合い、恋に落ちるというものです。

互いに独身なのだから、別にいいじゃないの、さっさとくっついたら…という野暮な感想も持ちつつ、じれったいほど緩やかに進行する恋愛です。

大した話ではないけれど、とにかくアンヌ(アヌーク・エーメ)がものすごい美人で、それだけで画が持つというか、何をやっても絵になる美術品級の美しさです。

髪のかき上げ方や物腰に、多少の神経質さが垣間見え、ンフ…ンフ…ンフ…と鼻に抜ける笑い方も嫌味があまりなく(ちょっとある)、スタンスも「女優になれるけどならないで映画スタッフとして働いている」という設定。

まぁ気取っているというか、よく見ていると鼻につく感じもなくはないのですが、文句なしの美人で、どちらかというと、ジャン(ジャン=ルイ・トランティニャン)が夢中になったのが先のようです。

ジャンはこれまたカッコいいレーサーという仕事で、優勝の後「愛してます」の電報を受け取り舞い上がって6000キロを走行してアンヌの元へ急ぐというのも、可愛いです。

その間、車の中で、会ってなんと言おうか迷うところもチャーミングさが炸裂して好きなシーンです。

一旦はジャンを受け入れたアンヌが、亡き夫を思い出し涙をこぼした時のジャンの混乱、当惑。とても気の毒に感じましたが「女心はわからないよね〜」と思ったらそのまま台詞に出てきたので苦笑しました。

あきらめきれずに、最後に駅でアンヌを迎えるところは、とてもいいラストシーンでした。

レースシーンの多さ、回想の多さは少し気になりましたが、そこは57年前の映画らしく、ゆったりとした時の流れが感じられて、良かったと思います。

たったこれだけの話を一本の映画に膨らませたのもすごいと思いますし、うっとりと眺めているだけで全く退屈しない愛でる系の映画でした。

劇場で見られて、とても贅沢ないい時間を過ごせました。