生きづらさというのは見た目では理解されないものです。
『正欲』では、新垣結衣さん演じる桐生と磯村勇斗さん演じる佐々木が、生きづらさの中で、お互いを理解し合い、共同生活を通して、居場所を見つけていく様子が主軸となっています。
同時に、大学生の神戸と諸橋、不登校の息子を抱える刑事・寺井一家のエピソードも交えつつ、ひとりの犯罪者を通して関わりを持つ構成となっていました。
新垣結衣みたいな可愛い人が生きづらいなんて…。つい思ってしまう瞬間が時々ありましたが、それこそ見当外れな他者の見方ではないかと、その都度自分を戒めながら観ました。
時々、こんなに才能のある方、また美しい方が、自死を選ぶのかと驚くことがありますが、能力も資質も関係なく、どうしようもなく本人が持ってしまっているのが生きづらさというものです。
それゆえ、難しいものだと感じます。
寺井家はあれで良かったのか?
桐生と佐々木が互いを認め合うことで生きる道を模索する一方で、神戸と諸橋、寺井刑事の家族は救われないままとなり、鑑賞後の後味が少し苦いものとなりました。
寺井刑事が子どもに「普通であること」を押し付ける姿勢には、子どもそのものよりも世間体を問題視しているようで疑問を感じますが、子どもが喜ぶからとユーチューバーにさせる妻の行動には、さらに大きな疑問を感じました。
結局、家庭崩壊となったのは、子どもが学校へ行かずにユーチューバーになることに理解を示さなかった寺井啓喜が悪かったということなのでしょうか。
私から見ると妻の方がよほど困った親に思えたので、どういう意図でこの家族を表現したのか、よく分かりませんでした。
母親側につけば、子どもは不登校ユーチューバーとなってしまい、ますます学校へは行けなくなってしまうと予想されます。そんな結末でいいんだ…救いが欲しかったな、とその点は残念でした。
正欲の意味やキャストについて
「正欲」の意味は明らかになっていませんでしたが、三大欲求のように「正しくあることを欲する」ことが示唆されているのかもしれないと感じます。
大多数や普通が必ずしも「正しい」わけではないにもかかわらず、それに縛られて苦しむ人々、強いる欲に苦しむ人々の姿を描いているようでした。
キャストの中では、神戸八重子を演じた東野絢香さんの演技がとても素晴らしくて、心を鷲掴みにされました。
新垣結衣さんは終始表情少なく、淡々と演じていましたが、それとは対照的で、諸橋に感情をぶつける場面での迫力が際立ち、圧倒されて涙を誘いました。今後が楽しみで応援したいと思います。
人生、苦がデフォルト
最後に「明日が来なければいいと思って生きてきた」というのは、よくあることですし、異常ではないと私は思います。
残念ながら、人間は生きているだけで苦しくつらい存在なのですから、そのように感じてしまうならそれも正しいのです。
私も長くそう思っていましたが、それもまた正直な自分の気持ちだと受け入れるようになってから、かなり楽になりました。
あたかも良くないことのように表現されているのが、少し気にかかりました。別にそう感じても、共感してしまっても、そんな自分を否定することはないのです。
それも人間のありのままの姿であり、どう思おうと今日一日を生き抜いたことが素晴らしいと思いますね。
生きることの苦しみに向き合う姿勢について、とても考えさせられる映画でした。