この不快感、どこかで味わったような…そう! 朝のワイドショー!
ご近所トラブルの話やゴミ屋敷の話題が多いため、もう何年も見ていないのですが、今もそのような感じなのでしょうか。あれをずっと見ているような気分です。
前半は夫アントワーヌのパート、後半は妻オルガのパートと分かれています。前半は特に、ほぼ不快さに耐える状態、そして後半もやや耐える…そしてその結果、すごくスッキリ…するわけでもない!
ちょっと肩透かしをくらうような結末のため、逆転や復讐劇を求めるとモヤッとするかもしれません。
簡単なあらすじ
都会から風光明媚な田舎に、理想郷を求めて来たアントワーヌとオルガ夫婦。古民家を改造して観光客を呼ぼうとしますが、村は貧困でお金のために風力発電を受け入れようとしています。
反対するアントワーヌたちと村人はうち解けることができず、中でも隣人の兄弟は、アントワーヌに嫌がらせを始めます。それは次第にエスカレートしていき、アントワーヌもビデオカメラを用意して、彼らの行動を監視します。
そして、最悪の事態が訪れるのですが、閉鎖的な村社会というよりは、隣の兄弟が執着してきて、その存在がとにかく不気味です。
疑問の数々・ネタバレあり
私はこの作品を受け入れることができるのかどうか、今の時点ではよくわかりません。なんとか理解しようとはしているのですが、いろいろひっかかります。どうしてこんなことになるのか、わからない部分が多いのです。
整理するために、黒もぐと白もぐを登場させて、自問自答してみます。
どうしてアントワーヌとオルガは、嫌がらせを受けても、この村にこだわり、居座るの?
確かに自然が豊かで美しいところだけど、唯一無二の村というほどでもない気がするよ。
他にも似たようなところがいくらでもあるのでは…命を賭けてまで留まる場所でもない気がするんだよね。
村の自然の素晴らしさ、美しさをもう少し描いて、離れ難さについて、もう少し納得させてほしかった部分はありますね。
ただ、アントワーヌは教師ということもあり、風力発電など誘致せず、自然を生かして村を豊かにできるはず、という考えに自信があったのでしょう。
教養があるため、目先のお金にとらわれている村人を内心愚かだと思ったかもしれません。
そして、本人の性質として、こうと決めたら譲れない頑固さも持ち合わせているように感じました。「郷に入っては郷に従う」考えも必要であり、そこで暮らし続けている人々への尊敬や配慮も必要でしたね。人間は白か黒かで決めるものではないですからね。
うーん、人間関係って難しいよね。アントワーヌの出方によっては、こんな悲劇も起こり得なかった感じはするよね。
それはそれとして、アントワーヌが隣人から殺された可能性があるのに、どうして妻のオルガは頑なに村を出なかったんだろう? 隣に殺人者がいるなんて、こちらは女性一人だし、怖くて寝られないよ。
心配する娘に私は大丈夫、なんて自信満々で言い放ったけど、何か根拠があったのかな?
オルガは夫のことをとても愛していましたから、その土地にとどまって遺体を探さなければいけなかったし、犯人を逮捕してもらわなければなりませんでした。
その覚悟が、恐怖を上回っていたと考えるしかないですね。
娘にいくら説得されても、オルガは決して動きませんでした。
あてにならない警察に頼らず、自分の力で夫を見つける決意、そしてひとりで畑を作り、羊を飼って生活していく決意をしたのでしょう。
夫の無念を晴らしたい、また、この地を離れたら負けだと思ったのかもしれませんね。いざとなると女性は強いです。
うう…愛と執念を感じるね。自分だったらさっさと荷物まとめて娘のところへ行くだろうな。
あと、アントワーヌが一生懸命録画していた動画が、結局役に立たなかったのはなぜだろう? ビデオカメラが出てきてやれやれ、と思ったら、再生できなくてどういうこと!? と思ったよ。
オルガが再生できなかったのはフェイントとして、警察署でもたしか「再生できませんでした」と言われましたよね。二度がっかりした気持ちになりました。兄弟の仕業とその場ではっきりさせず、いずれ逮捕されるであろうという匂わせにしたのでしょう。
遺体が出たことで、解剖の結果絞殺と分かるでしょうから、過去の嫌がらせ動画もパソコンにあることですし、隣の兄弟を逮捕することができるでしょう。
または、技術によるSDカードの復元で、証拠が現れる可能性もなくはありません。
もしかすると、オルガが隣家で「刑務所に行くだろう」と宣言したことで、二人が逃げるのではないか、とも思われますが、どちらにしても、兄弟が隣に住み続けることはできませんね。
オルガの執念が勝ったと言えるでしょう。
それがスッキリしなかった原因かもね…。
バレたと思って兄弟がパニックに陥り、互いを殺し合う、みたいな壮絶ラストを期待したから、ガクッとなっちゃったよ。
最後のオルガから隣家の母親への言葉も、抑えたトーンでなんだかモヤッたな…「お互いにひとりになるから、何かあったら言って」だなんて…コイツの息子たちが愛する夫を殺したんだよ、ハラワタ煮えくり返ってパンチの一発もお見舞いしたいよ(泣)
まあまあ落ち着いて(汗)
そこがこの映画の怖いところなのですよ。この時のオルガは、とても不気味ではありませんでしたか? 感情を抑えて冷静に、淡々と語りましたよね。
隣の母親は、予想を超えた言葉に混乱し、恐怖を感じたと思います。ここで静かに立場が逆転したのです。オルガを知的で冷静な人物として描くことで、無知・感情的な隣人たちと鮮やかに対比させたのですよ。
そしてもうひとつ。オルガはこの村にからめとられ、馴染み、村民としてこれから生きていくであろう自分を認識して、自重・自嘲している部分もあると思いますね。
最後ちょっと微笑んでいたように見えたよ。
ここでオルガが初めて村民らしく見えた、というのも皮肉が効いているし、怖いよね。
2010年の実話を元にした話だそうですが、実際に未亡人は村に住み続けているそうですよ。多くの人が訪れて、にぎやかに暮らしているそうです。
うわ〜強い!
一生プレッシャーを与え続けるつもりだね。たしかに悪くない方が逃げるのはおかしいよ。堂々と暮らして、幸せになってほしいな。映画のオルガと鼻の効かないポンコツ犬もね!
まとめ
一人芝居終了。言語化したことで、一応の納得ができた気がします。
まぁ、どう考えても、どの段階でも、村から出ていくのが自然であり、ベストの選択であったと正直思いますが、どれほどの執着がこの村にあったのかが、もう少し描かれていればよかったかもしれないです。
心理サスペンス的な前半と、夫婦愛・親子愛が描かれた後半との融合で、実に不思議な映画でした。多少の胸糞映画はOKな方でないと、難しいかもしれませんね。