『ブエノスアイレス』(1997)映画感想文・U-NEXTにて鑑賞

今年観た『さらばわが愛 覇王別姫』(1993)に完全にやられたため、コソコソとレスリー・チャンの作品を見直しています。

しかし、見れば見るほど覇王別姫が別格のように思え、私にとってあれを超えるものはないのかもしれない、と最近思うようになりました。

この『ブエノスアイレス』も決して悪くはなく、いい映画だとは思いますが、しんどさ及ばず(しんどいはほめ言葉)でした。

レスリー・チャンとトニー・レオンが恋人同士で、アルゼンチンを舞台に愛憎劇を繰り広げます。

互いに深く愛し合っているにも関わらず、嫉妬や独占欲、わがままや心の危うさにより、付かず離れずを繰り返します。

トニー・レオンが、レスリー・チャンの魔性ともいえる存在に翻弄され、大変痛々しく、なんとか逃すまいとパスポートまで奪う姿が、とても哀しく私の目には映りました。

地球を半周してのロケを行ったこの映画ですが、現地入りの時点で、ロケ地以外は白紙のままであったと知り、そんな行き当たりばったり! と大変驚きました。

ウォン・カーウァイの撮影方法は、台本が存在せず、スケジュールさえも分からない、という独特なものらしく、そのため膨大なフィルムを回すことになり、ほとんどがカットされたといいます。

オススメにメイキング動画が上がっていたので引き続き観ました。すると、間に女性が入るシーン、トニーが自殺を図るシーンなど、見覚えのないものが多々ありました。

女性を交えての撮影が多くあったようですが、全てカットされていて、地球半周して、たくさん演技をしても全部カットなの!? と怖くなりました。ギャラは支払われているのか、余計なことが気になります。

ただ、女性が介入しないことで物語がシンプルになり、二人の恋愛が際立つ結果にはなっています。

よく言われる、二人がタンゴを踊るシーンはとても美しく、この後に別れが待っているだけに、儚さも感じられ、うっとりと魅入りました。

ラストがあれでいいのか? という問題については、私個人はかなり満足でした。

アルゼンチンで交流のあったチャンという青年の実家(屋台)を偶然見つけたファイ(トニー・レオン)。

遠く離れた地で、知人の消息を知ることになった彼は「会いたいと思えば、いつでも会えるのだ」と勇気づけられるのです。

かすかな希望を胸に、台北へ戻っていくファイの胸には、まだウィン(レスリー・チャン)が大きな存在として残っているのです。

ただ、会わない方がいいのだろうなと、私は強く思いました。おそらく泥沼の愛憎劇が再び繰り返されるからです。

美しい二人の青年が、穏やかな恋愛を送れない運命に翻弄される、とても切ない物語でした。

ウォン・カーウァイって、本当に凄いです。