旧友の男性たちが、秘湯へ行って帰ってくるだけの話です。
しかし、夫が旧友と二人(きり)で山の秘湯へ出かけると聞いたら、私は多分、微妙な気持ちになりますね。
そして予定の日に帰らない…頭に浮かぶのは『ブロークバック・マウンテン』。
「何か起こるのか、もしくは起こらないのか」という緊張感が下世話ながらずっとあり、そのため全く退屈しない73分でした。
結局、行って帰るだけの話にはなっていました、が。
目次
長編デビュー作「リバー・オブ・グラス」で高く評価されたケリー・ライカート監督が、ジョナサン・レイモンドの短編小説を基に撮りあげた長編第2作。
妊娠中の妻と故郷で暮らすマークのもとに、街に戻って来た旧友カートから電話が掛かってくる。
久々に再会した2人は、旧交を温めるべく山奥へキャンプ旅行に出かけるが……。
「パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー」のダニエル・ロンドンがマーク、シンガーソングライターのボニー・プリンス・ビリーことウィル・オールダムがカートを演じた。
2006年製作/73分/アメリカ
映画.comより引用
原題:Old Joy
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム
劇場公開日:2021年7月17日
カートの思いはわかりやすく感じました。
旧交をあたため、一人暮らしの孤独を癒やしたいという気持ち。あるいはマークに対しての愛情が再燃したのか、過去に関係を持っていたのか。
いずれにせよ、マークに対する友情(と言っておきます)と期待はひしひしと感じられました。
もしかすると故意に道に迷ったのかもしれません。ピンクのシャツに短パンも同性愛者のシンボルカラーという見方ができます。
一方のマークは家庭を持ち、もうすぐ父親になろうとしていて、社会貢献も考えており、歳月が二人の道を大きく隔てたことは間違いありません。
行き当たりばったりで、わざとかもしれないけれど道に迷うカートに対して、地図を見て目的地を探すマーク。この対比は、二人の生き方を象徴しているようです。
現実の残酷さに気づいたカートが「マークの友情を失うよぅ…」と泣くシーンは切なさと哀れさが入り混じり、なんともいえない気持ちにさせられました。髭面のおじさんを被った女子のようです。
この場面を経て、カートは自分たちの関係が「使い古した喜び(OLD JOY)」であることを悟り、お互いの立場を受け入れていったのではないでしょうか。
ラストはあてもなく街をさまようカートでしめくくられています。
自由を求めてヒッピー的生活をした代償、でもそのようにしか生きられなかったという悲哀。
自らの選んだ人生見つめ直さずにはいられない、やりきれなさが垣間見えます。
物乞いから小銭をせがまれ、一度は断りながらも、思い直して金を渡す。
このシーンが非常に巧みだと感じます。
自分はこのホームレスよりも、少しはマシなんだ。そして多少の優しさだって恵んでやれる人間なんだ…。
ささやかな自信を持つための行為に、虚しさやあきらめの気持ちも入り混じり、複雑な心情が表現されています。
こうしてみると、主人公はマークかもしれませんが、カートの人物造形に興味をひかれる内容でした。
ケリー・ライカートの巧みさには感心しました。これが鑑賞二作目、続けて観たいと思います!