今年はよく映画を観たので、ベスト10を考え始めていたのですが、年末になって順位が混乱しそうな最高のしみじみ映画が現れました。
飲ませたくなくて、小さいビンを選んだアンサ。そして一気に飲み干したホラッパ。グラスはすでに空…
監督・脚本
アキ・カウリスマキ
キャスト
アルマ・ポウスティ(アンサ)
ユッシ・バタネン(ホラッパ)
基本情報
2023年製作/81分/G/フィンランド・ドイツ合作
原題:Kuolleet lehdet
配給:ユーロスペース
劇場公開日:2023年12月15日
北欧の街ヘルシンキ。スーパーに勤めるアンサは理不尽な理由から解雇され、工事現場で働くホラッパはアルコール依存。
ある夜、二人はカラオケバーで出会い言葉を交わす。互いに名前も知らないまま惹かれ合うが、偶然のいたずらにより再会できず、すれ違う。
セリフ少なく、登場人物はみな無表情で大きなドラマもありません。
それなのに、この映画に魅了されるのはなぜだろうかと考えました。
登場人物たちは豊かとは言えず、生活のために職場を行き来するだけの生活です。
しかし、彼らは現状を嘆き悲しむこともなく、あるがままを受け入れて(受け入れざるを得ないのでしょうが)、そして哲学を持っています。
それは、彼らがもう若くはないことに由来しているのかもしれません。
気が滅入る生活を何とかやり過ごしながら、社会の片隅で生きている、その人間らしい営みにスポットが当てられていてグッとくるのです。
また「無表情だけど心の中ではどう考えているのか?」と、勝手に推測し脳内補完したり、共感してみたりする楽しさもあります。
ユーモアにあふれていて、決して重苦しい物語ではなく、とても味わい深い。そこがアキ・カウリスマキ映画の良さなのかなと私なりに思います。
ホラッパは仕事中も隠れて飲むほどの依存です。その彼がアンサのためにお酒をやめたのには驚きました。
私自身、断酒して4年になるので、そう簡単にやめられるものではないことがわかります。
アンサに対する愛情がとても深いことがうかがえるエピソードであり、とても好きです。
最初は現実的にすれ違い、次に心がすれ違い、歩み寄ったと思えばまた一波乱あり…と「本当は」ドラマティックかつロマンティックな展開なのです。
そう見えないところが奥ゆかくて素敵です。
姉妹バンド、マウステテュトットの歌がとても印象的で面白かったです。
アンサとケンカ別れしたホラッパが、いつものように飲んでいるバーで、姉妹が演奏するのですが、その歌がとにかく「真っ暗」なのです。
「あなたのことは好きだけど一人にして」「私は囚人永遠に」「墓場すらフェンスだらけ」「寿命が尽きたら地中深くに埋めてほしい」などという歌詞でビックリします。
曲はポップなのですが、真顔でこの歌詞。その場で飲んでいた男性たちが、微妙な顔つきになるのが、とても面白く、場内からも笑いがもれていました。
思うに、この歌詞をきっかけにして、何か思うところがあり、ホラッパは断酒を決意したのではないでしょうか。
それはつまり、気が滅入る世界からアンサと二人で脱出しようという決意です。
とても意味のある大切な歌だと思いました。いい曲なのでヒットすればいいのになと思いました。
アンサが途中から飼い始めるチャップリンという名の犬は、アキ・カウリスマキ監督の飼い犬だそうで、そんな裏話も微笑ましいです。
独特の雰囲気がある作品で、好みは分かれるかもしれませんが、ある程度年齢を重ねた方々には響く映画ではないでしょうか。
派手さはなくとも、映画館で浸るのが最高だと思います。ぜひ劇場で多くの方にご覧いただきたいです。私ももう一度くらい観たい!