見逃していたため、Netflixで鑑賞。どう生きていくのか、探し求める女性たちが眩しく見えます。
自分はこんなに考えて生きていただろうか…昔過ぎて記憶にないのが悲しいぞ!
キャスト
榛原華子(はいばらはなこ) / 門脇麦
時岡美紀 / 水原希子
青木幸一郎 / 高良健吾
あらすじ
代々医師の家庭に育ち、何不自由なく成長した華子。結婚が幸せと考え、婚約者に振られた後は、相手探しに奔走する。
その中で、さらに良家である政治家の家系、弁護士の幸一郎と出会い、順調に婚約が決まる。
一方、富山で育ち、猛勉強の末に東京の名門大学へ合格した美紀。学費が続かずに中退し、東京で職についている。
幸一郎とは大学の同級生であり、幸一郎と華子との婚約後も交際が続いていた。
幸一郎を介して出会った華子と美紀。交わるはずのなかった、格差のある二人に、心の交流が生まれ、それぞれの生き方に影響を与えていく。
対決という形をとらない生々しさ
幸一郎と交際している美紀と、婚約者である華子の初対面。普通であれば「別れて欲しい」「別れたくない」と声を荒らげるやりとりがありそうです。
しかし、いとも簡単に美紀は別れを承諾します。なぜかというと、このまま交際を続けても、由緒正しい家柄の幸一郎と結ばれるのは無理だと、心のどこかで、または初めから、分かっているからです。
婚約者の華子は相応な家柄の相手だと分かり、察した美紀。同時に、交際相手と結婚相手を分けて考えていた幸一郎の冷静さにも、思うところがあったのかもしれません。
対決しないことで、逆に階級の違いを浮き彫りにするという生々しさを感じます。
しかし、あくまでも、さらりとしたやりとりに終始している。その品の良さに感心しました。
良し悪しではなく、階級がただあるということ
階級という枠の中で、それぞれの価値観で生きている。この映画では、誰が良いとも悪いともジャッジしていません。
苦労したから偉いとか、そういう考えはいいかげん捨てた方がいいと、私は常々思っているので、そこがとても素敵だと感じました。
ただただ、言葉ではなく映像で、階級の違いが「そこにある」ということを見せていきます。
これもまた岨手由貴子監督の手腕と感心しました。「言葉で分からせる」のは簡単ですが、「見て感じさせる」ためには、大変な工夫が必要だからです。
華子は、自分よりもさらに上の家柄である幸一郎と結婚しました。
そこでやっと、自分の育ってきた環境が格差のほんの一層に過ぎない、と気付かされたのではないでしょうか。
美紀は自分の生き方を考えて、切り開いていく必要があった。それに対して華子は、今まで考える必要がなかったのです。
幸一郎の家に入って「こういうものだ」とされる価値観、たとえばゆくゆくは政治家としてやっていくのだとか、子どもを産まなくてはいけないとか。
そこに違和感を覚えたことで、自分の今までの価値観も代々踏襲してきた、凝り固まったもではなかったのかと気づいていく…。
華子の心の変化、表情の変化を、門脇麦さんがとても細やかに演じられていて、すばらしいと思いました。
「どう生まれたか」より「どう生きるか」
どのように生きていくのか、自分で選び取っていく女性たちを、とてもやさしいまなざしで捉えています。
華子が20代後半になり、自分の生き方を考え直した時に、全く別の生き方をしてきた美紀から学び、美紀もまた、華子から何かを感じ取ります。
敵対するのではなく、お互いを知り、認め合うフラットな目線。どう生まれたかを超えて、同じ時代を生きる女性同士の、ゆるやかな連帯感が生まれたように見えました。その関係性が、とても心地よく心に響きます。
冒頭でタクシーの運転手の声さえ耳に入らない、言ってみれば独りよがりだった華子が、終盤ではタクシーの中から美紀を見つけて飛び出していく。その対比が華子の変化を物語っていました。
また、自転車の若い女性たちに手を振る華子ですが、エールのような意味を持たせているのかな、と温かい気持ちになりました。
まとめ
「自立していく女性を描いた」とひとことでは言えない、奥深さを感じました。
学校を卒業して、就職し、自分ってこの先どう生きていけばいいのだろう…20代の後半から30代にかけては、夢もあれば漠然とした不安もある年代だと思います。
そんな若い女性の方々への、あたたかい目線を感じる、とても素敵な作品でした。