「CLOSE / クロース」感想文・苦しみからの再生と癒やし

ストーリーは公式サイトのあらすじがほぼ全てであり、シンプル。レオの表情をカメラが丹念に追っていきます。

苦しい物語ではありますが、レオ(とレミの家族)の再生が主軸と私は感じました。

少年たちが新人という驚き

本作で俳優デビューとなる二人、特にレオ役のエデン・ダンブリンさんの表現力に驚きました。

とても心が揺れ動く役どころでありながら、抑制された表情と目の力で全てを表現していて、気持ちがひしひしと伝わってきます。

平静を装って日常を送る様子にも、その胸の内の寂しさや恐れ、罪悪感など複雑さが感じられました。

電車の中で偶然監督に会ってオーディションを勧められたという、嘘のような話ですが、運を引き寄せる力があったのでしょうね。目の力がとても素晴らしく、今後の活躍が楽しみです。

幼馴染のレミ役のグスタフ・ドゥ・ワエルさんもレオから距離を置かれた戸惑いと悲しみがよく伝わってきました。中丸くんにちょっと似ていて可愛らしかったです。

言葉で説明しない「深みと品性」

ほとんど、起こった出来事が中心で、心の中を説明しない作りです。

そこに奥ゆかしさといいますか、見る側に多くを委ねる行間の深み、説明をし過ぎない品の良さを感じました。

ラストシーンで、レオが手にする「木の棒」。一体どんな気持ちでこの棒を手にしているのか…これまで抑制され、蓄積された彼の苦しみが、答え合わせのように感じられて、涙涙…でした。

国も年齢も環境も自分とは全く違う物語ですが、なにか共通する人間としての気持ちがあることがわかりました。「集合的無意識」というものかもしれません。

後半でレミの母親との交流がありますが、冒頭の「本物の家族のようにレミの家で過ごすレオ」の美しい場面が思い起こされ、猛烈に心に響いてきます。見事なつくりでした。

『怪物』との比較

『CLOSE』は「第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリ受賞」ですから、是枝監督は『ベイビー・ブローカー』でカンヌを訪れていた際にご覧になったのかも知れません。

どこまで影響されたかはわかりませんが、見ていることは確かのようです。

設定として、二人の少年が友情なのか、それ以上の感情なのか、曖昧に揺れながら、周囲との折り合いに悩むところは似ています。

・『怪物』は第三者の視点から主人公に焦点を絞っていくのに対し、『クロース』は冒頭からずっとレオの心の動きを追っていく。

・『怪物』は無理解な大人たちに囲まれていますが、『クロース』は理解できないながらも寄り添っていこうとする温かい大人のまなざしを感じる。

・『怪物』はたいへん凝ったつくりであり、『クロース』はとてもシンプル。

こうして比較すると、『怪物』は確かに凝りまくっていて面白いとは思いましたが、好きかどうかで言えば「うーん…」です。ラストが明確でないのが、どうしてもひっかかりました。

生か死か…とても重要な部分を、どちらともとれるようにぼかしたため、そこまでさんざん振り回された挙げ句に、重要な部分の解釈は自由にどうぞ、と投げられた感じが少し不快だったのです。

比較することで『クロース』は、起こってしまった出来事に対して物語がきちんと対峙している、誠実さのようなものを感じました。

まとめ

今、誠実さ、と書きながら、この映画に漂っている真面目さ、率直さ、不器用さなどが、とても自分の気持にフィットしていて、この映画は本当に好きだなぁと思いました。

とはいえ、つらく苦しいストーリーであり、公式ページに注意喚起が出ているので、ご心配な方はご一読の上、ご覧になった方がいいかと思います。

美しい景色と共に、残された者の再生の物語として、深く味わえる作品でした。