「君たちはどう生きるか」感想文・生きていくのは元々苦しいもの、さらに自分で考えなくてはいけないというハードな問題

世の中の評価は賛否ありということですが、私は宮﨑駿の作品の中で最も好きかもしれません。…かもしれない、というのは、まだこの映画が自分の中で流動的なためです。

見てから3、4日経ちますが、いまだに余韻があり、思い返してハッと気づくところがあります。

見てすぐわかる話ではありませんが、何度か見れば自分なりの解釈はできそうですし、もしわからないままでも、そこから感じ取る「何か」があればそれでいいのではないでしょうか。

ということで、あまり難しく考えず、私が感じた何点かをメモしておきます。

ネタバレありとさせていただきます。

眞人がモヤモヤしているのが良い

私がこれまで宮﨑駿作品にそれほど強い思い入れがなかったのは、主人公が比較的迷いなく、明るくまっすぐに生きているキャラクター造形だったからです。

または、千と千尋のように、元々の主人公がそれほど深く描かれないまま、冒険の世界に駆り出されていくことも多かったと思います。

しかし今回は、現実世界にかなりの時間を割いていて、眞人がさまざまな葛藤を抱えている様子がしっかりと描かれており、とても共感が深まりました。

特に自分を傷つける場面は見ていて辛く、眞人の苦悩の極まった印象的な場面でした。自分自身を大切にできないことが、さらに自分を苦しめるんですよね。

ジブリ作品には珍しく、叔母から母になったナツコの妊娠など、性的な想起をさせる設定もありましたし、眞人の生々しい心の動きが垣間見えます。

人によっては気持ち悪いと感じるかもしれません。

冒頭から生(性)と死の匂いが漂っていて、全体のトーンは暗く重いのですが、「人のありのままの姿ってそういうもの」と私は思いました。

心の動きは振り子のようで、杓子定規にはいかないものです。宮崎監督はとても率直に、覚悟をもって眞人という少年を表現されているのだと感じました。

眞人が断ってくれて溜飲が下がる

なんやかんやあって、意味が分からず困惑する場面もありつつ(笑)、大叔父から世界の均衡を保つ役目を頼まれる眞人ですが、ここで私はとてもドキドキしました。

「受けたらダメ〜受けたらセカイ系になっちゃう〜やめて〜」

一人が世界を救うとなると、なんだかありきたりな話になって、がっかりしそうな気がしたのです。

ですから、眞人が世界を救うことをきっぱり断ってくれて、皆が元の世界に戻り、マルチバースの変な話にならなかったことが、本当に嬉しかったです。心の中でガッツポーズでした。

考えてみれば3日に一個石を積むなど、いくら平和でも全く面白くない人生です。

争いのある元の世界に身を投じ、そこでさまざまなことを乗り越えたり、乗り越えられなかったりして生きていくことこそが、人間として生きる味わいなのです。

眞人はそこに理屈がなかったのかもしれませんが、冒険を通して大切なことを感じ取る力を身につけたのかな?と思いました。

それで結局「君たちはどう生きるか」

眞人が拒み、結果的にその世界は崩壊しました。

しかし、誰かひとりに任せて世界の均衡を保つのではなく、ひとりひとりが「自分はどうあるべきか、自分自身で考える」ことが大切なのではないでしょうか。

吉野源三郎「君たちはどう生きるか」の精神を取り入れ、普遍的で哲学的ともいえる内容であったと思います。

目先の勝ち負けではなく、誰かに責任を負わせるのでもなく、自分の頭でよく考え、自分の足で歩いていくのですよ、というメッセージを受け取りました。

まとめ

王道のエンターテイメント性を求める方ならば、違和感を覚えるかもしれない作品ですが、私はとても好きです。好みが分かれるでしょう。

生き方について考えてみたい方には吉野源三郎著の書籍と共に、おすすめしたいと思います。

生きることそのものが苦しみだと、お釈迦さまの時代から言われていますが、さらに自分で考えていかなくてはならない…生きるということそのものが大変ですごいことです。

私はとりあえず「ザ・フラッシュ」のストーリーを考えた人には見せてみたいですね(←マルチバースで過去を変える話でした笑)。