この映画、すごく良かったです。希望を描くとはこういうことだと思いました。
うまくいかないことがあり、何かをきっかけに気づきがあり、乗り越えて変わっていく…という、登場人物たちの成長が描かれています。
「怪物」と同じ日に公開されて、鑑賞を後にしてしまいましたが、私は「渇水」の方が好きです。
「怪物」は子どもたちが苦しんだ末に(たぶん)亡くなっているので、というか「亡くなっているともとれるつくり」にしているところが、やはりどうしても不快だ、と「渇水」を見たことにより、はっきりとわかったのです。
それを考えるとこちらを後にすることで、救われた感があり、逆によかったのかもしれません。
生田斗真さん、二人の子役の女の子たち、その他俳優のみなさまが素晴らしくて、私の一押し磯村勇斗さんも相変わらずすごく良かったです。本当に最近大活躍で、うれしい限りです。
心の乾き(起)
水道料金の滞納者に対して、止水を執行するという仕事の岩切は、淡々と仕事をこなすために、自ら「心を乾かして」いたのではないかと私は思うのです。
情に流されていてはできない仕事であり、岩切の元々の乾いた性格にも合っていたのではないでしょうか。
淡々と滞納者の水を止めていく岩切。生田斗真の輝きを抑えた演技が意外であり、新鮮でした。本当はめっちゃイケメンなのに、そこに気を取られないようなオーラを消した演技なのです。
余談ですが、生田斗真さん、家の近くでロケをしているところをお見かけしたことがあるのです。カッコ良すぎて思わず「うわっ!」と声が出ました。放っておくとそれぐらいカッコいい(笑)
元々どうして岩切が乾いていたのかというと、どうやら親子関係に原因があったようです。
「子どもが自分と似てきて、どう接したらいいのかわからない」
「自分の親と同じことをしてしまいそうだが、他に方法がわからない」
そのようなことを語るのです。おそらくあまり関わってくれない親の存在があったのでしょう。家族があっても、ひとりでいることを好むような日が続き、妻は子どもを連れて実家へ行ってしまいます。
ますます乾いていく岩切、ここが最も印象に残ったところです。
幼い姉妹(承)
ネグレストにより母親が不在の、幼い姉妹に出会った時、岩切は自分をそこに重ね合わせたに違いありません。
いつもは淡々と仕事をこなす彼が、迷いながらも期限に猶予を与えたり、世話を焼いたりすることで、子どもたちに何か特別なものを感じていると分かりました。
現実の水と、心の中の水がシンクロしていることに気がつきました。この子どもたちも心がカラカラになっているのです。
なんとか、この子たちが救われる結末になっていればいいけれど。「怪物」みたいにはならないでおくれ…というのがここでの正直な気持ちでした。
小さなテロ(転)
節水制限の中、公園の水栓を全て開けて、岩切は辺りに水を撒き散らし、姉妹を喜ばせますが、当然捕まってしまい、職も失うことになります。
ここで何が起こったかというと、姉妹(特に姉)が初めて岩切という大人に対して心を開くきっかけとなったのです。
姉の方はこれまで大人に対して心を閉ざしており、幼い妹と二人で暮らしていくのだと頑なに援助を拒んでいました。
万引きやよその水を盗んだりして、すさんでいましたが、ルールを破って自分たちに水を与えてくれた岩切を見て、ようやく大人を信頼したのです。
散水のシーンは少し派手すぎる気もしましたが、心を動かす演出をするには、これくらいのことは必要なのかなとも思いました。
その後(決)
姉妹は岩切とのできごとをきっかけに、施設に行くという、次の行動を受け入れました。
岩切も、家族関係を見直し、子どもの信頼を取り戻せるかもしれないという希望を持ちました。
これまでカラカラだった登場人物たちの心に水が注がれて、エネルギーとなり、次の行動ができるようになったのです。
これがすごく理にかなっていて、見事だと感じました。
というのも、私は不登校支援のお手伝いをすこししているのですが、子どもの心のコップに自信の水を入れる声かけをすることで力がつき、再登校ができるのです。自信は活動の力になるのです。
姉妹は、きまりなど無視してでも自分たちのことを考えてくれる大人がいることで自信がつき、また、岩切にとっては、姉妹への共感や手助けをすることで、自身(の幼い頃)が癒やされ、自信がついたのです。
おわりに
ほんの少し気にかかったのは、先に書いたように、水を撒く行為が、これまでの経緯と比べて突飛な印象がややあった、という一点だけでした。
ただ、では他にどうすればよかったのか、私には全然わからないので、この展開には納得しています。
俳優さんが皆さんすばらしく、演技をじっくりと楽しめる、本当にいい作品でした。見てよかったと思います。