『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』映画感想文・エドガルド役の少年と青年が好演

19世紀半ばとはいえ、こんな不条理な話があるのかと衝撃を受けた作品。実話を元にしています。

召使いの少女から形ばかりの洗礼を受けてしまったために、6歳でカトリック教会に連れ去られた少年エドガルド。そのの半生を描いています。

あらすじ

1858年、ボローニャのユダヤ人街に暮らすモルターラ家に、時の教皇ピウス9世の命を受けた兵士たちが押し入り、何者かにカトリックの洗礼を受けたとされるモルターラ家の7歳になる息子エドガルドを連れ去ってしまう。教会の法に則れば、洗礼を受けたエドガルドをキリスト教徒でない両親が育てることはできないからだ。息子を取り戻そうとする奮闘する両親は、世論や国際的なユダヤ人社会の支えも得るが、教会とローマ教皇は揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に決して応じようとはせず……。

2023年製作/125分/G/イタリア・フランス・ドイツ合作
原題:Rapito
配給:ファインフィルムズ
劇場公開日:2024年4月26日

感想(ネタバレあり)

6歳でユダヤ教徒の両親の元から離され、カトリックの教会に入った彼の心境…なかなか想像しにくいですが、私には相反する気持ちに揺れ続けているように見えました。

ピウス9世に対しては、尊敬や敬愛だけではなく、家族と引き裂かれた憎しみを心に秘めていたのではないでしょうか。

6歳、まだまだ親に甘えたい年齢です。

両親が、連れ去られたエドガルド(少年時代)に面会に行く場面で、それまで淡々としていたエドガルドが突然振り返り母親に抱きつきます。

このシーンは涙なしには見られませんでした。

衝動的に教皇ピウス9世を突き飛ばす場面もありました。

このシーンは少し解釈が分かれるかもしれませんが、緊張のあまり…というよりも理性とは裏腹に本能として身体が勝手に動いた、ネガティブなものだと私は解釈しました。

ピウスが亡くなると棺を川へ投げ込めと叫んだのも唐突で、彼の心の揺れを表現しています。

一方で母親の死に際には聖水を取り出し、兄に咎められる場面もありました。

エドガルドの矛盾する行動に、愛憎相半ばするといった、ひとことでは言えない感情がくみ取れます。

誘拐された先で強いられた信仰に従いながら、両親やユダヤ教への思いが時折、衝動的に現れるところが興味深かったです。

結局エドガルドは本当のユダヤ教徒でもカトリック教徒でもない、不安定な青年となってしまったのかもしれません。

その後、終生宣教師として暮らしたということですが、運命に翻弄され人生が大きく狂わされたと見るか、これが宿命だったのかと見るかは、本当に難しいです。

教会という名の元で、堂々と誘拐が行われ、世界的に知られるところとなり裁判となっても、子どもを取り戻すことができない。

こんな滅茶苦茶なことがまかり通っていたことにやりきれなさを感じました。

青年エドガルドを演じていたレオナルド・マルテーゼは2023年の問題作『蟻の王』がデビュー作です。

デビュー2作目とは思えない印象的な演技で、数日経っても表情が心に残っています。

まだ少し演技が硬いような気もするし、上手いのかどうかイマイチわからないのですが、記憶に残るタイプでとても気になります。

1997年生まれだそうで、息子と年が変わらないのが少しショック。

実は『蟻の王』を見逃してしまっていて、ものすごく後悔しているので、なんとか探して早く観たいと思います。

これからも楽しみな俳優さんです。