『No.10』映画感想文・油断大敵、本当にそうだった(笑)

久々に大変奇妙な映画に出会いました。

これから見る予定の方は、内容を知らずに見た方が面白いです。

見る予定のない方、もう見た方だけ、この先をお読みください。

あらすじ

幼少時に記憶をなくし、森に捨てられた末に里親のもとで育てられた男性ギュンターは、大人になると役者として舞台に立つようになった。しかし、共演者と不倫をしたり、ひとり娘が肺をひとつしか持たない状態で生まれてくるなど、その人生は波乱含みだった。やがて役者仲間に裏切られて残酷な仕打ちを受けたギュンターは復讐を決意するが、その先には想像を絶する事実が待ち受けていた。

2021年製作/101分/G/オランダ・ベルギー合作
原題:Nr. 10
配給:フリークスムービー
劇場公開日:2024年4月12日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

上映館数がとても少なく「それほどの作品でもないのかな?」と予定に入れていませんでしたが、YouTubeチャンネル「シネマサロン」で紹介されたので気になり、見に行きました。

ほとんど内容は知らず、不倫からのサスペンスかな? ぐらいの気持ちでした。

実際、最初から半分はそんな話です。

不倫を監視する「ギュンターの娘」や「不倫相手の夫」や「教会関係者(なぜか笑)」がおり、チクったり尾行したり、仕事上で仕返ししたりと辛気臭い話が続きます。

40分ぐらいで不倫話に飽きて、ちょっと眠くなってきました。

ウトウトしているうちに、主人公ギュンターの不倫が公になっていました。この話、まだやってたのか…と複雑な気持ち。

不倫をチクった老俳優にギュンターが復讐するなど、まったく子どもじみていて、レベルの低い話です。

そもそもギュンターが悪いのに報復するってどういうこと!?

しかし後半、そこから話は大きく逸れて、住む場所のなくなったギュンターは、謎の教会関係者に導かれるように、森の中の教会へ。

次第に事実が明らかになっていくのですが、なんと彼は宇宙人だったようなのです!

スケールアップ! というか、どういう話!?

異常な展開にさっきまでの眠気は吹っ飛び、俄然面白くなってきました。

後半、憑き物が落ちたような展開。一体どこへ向かうのか…まるでミステリーツアーのようです。

前半の登場人物(演劇関係者)が一切出てこないのも潔くてGOOD。

どこまで本当なのかと思ったら、本当に宇宙船で故郷の星へ飛び立ったので「これは紛れもなくSF…」と、混乱しつつも歓迎しました。

セコい不倫話が続くよりずっとマシだからです。

ノリノリで一緒についてきたギュンターの娘は、彼の記憶が偽物と察知しますが、もう宇宙に旅立ってしまっているので後の祭り。

寝転んでスマホでピコピコとゲームをするギュンター。この人結構単純というか、いい感じで馬鹿であり、一切同情できないところも良いです。

一方、キリスト教を布教しようと同乗していた神父たちは、キリスト像や宗教画とともに宇宙へ放り出されてしまいます。

この目まぐるしい展開に混乱しているうちに、エンドロール。

こちらまで何やら放り出された気持ちになりましたが、不思議なカタルシスがありました。

前半の不倫話から宇宙に旅立つという振り幅の大きさや、訳知り顔でもったいぶった存在の神父たちを宇宙に放出したことで、妙に爽やかな印象が残ったのです。

意外と前半のしょうもない?不倫話が、(いささか長いにしても)対比として生きているのではないかと思いました。

前のシーンでギュンターは故郷と言われる星での布教に苦言を呈していたので、彼の意見を尊重しての抹殺だったのでしょうか。

「2001年宇宙の旅」を思わせるシュールなラストシーンには、本当にこちらまでどこかへ連れて行かれたようでもあり、呆然としました。

映画.comさんの評価では2.5という低さですが、こんな映画があってもいいんじゃないの? 面白かったよ! というのが正直な感想です。

この直前に見た『リトル・エッラ』が割と予定調和だったので、落差が強烈で刺激的でしたね。

面白い映画体験でした。