怪作です!
見終わった瞬間に「え〜!?」となるものの、後から考えてみるとすごく面白く、考察でじわじわ楽しめる作品です。できれば確認しながらもう一回見たい!
アカデミー賞主演女優賞は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のミシェル・ヨーでしたが、演技の凄味はケイト・ブランシェットが圧倒的だと今日(2023/05/12)見て思いました。
これはもっと早く日本で公開してほしかったです。なぜだかわかりませんが、公開が遅過ぎます。
世界一の女性指揮者、マエストロと呼ばれるリディア・ターは、権力を振りかざして周囲を支配しようとします。
相手が生徒だろうが、子どもだろうが、容赦なく詰めていくパワハラ気質。
問題が発覚しても、ひとつひとつのことに向き合う姿勢がなく、周囲との調和もはかれず、他者を尊重し、大切にすることができない。
力を持った末に、傲慢なモンスターになってしまった。
ターはやがて、自業自得ともいえるきっかけにより、その地位から転落していきます。
ターの行き着く先を見届けた時に、アジアやポップカルチャーが見下された感覚が一瞬ありましたが、それも少し違うよね、と考え直しました。
そこをどう見るかで変わってきます。ターはおちぶれたのか、または再起をはかろうとしているのか、どちらの見方もできるのです。
どうとらえたらいいものか…一晩寝て考えた結果、次のようになりました。
「欧米やハイカルチャー至上の時代が終わりを迎えていることを、ターの転落になぞらえて表現しているのではないか。
TARはアナグラムでART、ターはアートの擬人化にも見える。
ハイカルチャーという地位にあぐらをかき、裸の王様になっていないか?(上記太字のような)という皮肉や問いかけがテーマでは」
ターは持ち前のタフさで、転落ではなく逆転させるためにステージに上がったのではないかという解釈に落ち着きました。
いい悪いは別として、この「ター」、簡単に潰れるような人物ではないと信じてみたい気がしました。
「暴君が落ちぶれておわり」だと、全然つまらない、長いだけの話(2時間半)になってしまいます。
冒頭の長いシーンにもそれ相応の意味が含まれているはずなので、もう一度見たいという気持ちが、フツフツとわいてきます。
私は非常に面白かったので、終わってから他の方々がどのような反応をされているのか見るのも楽しかったです。
初日のため、情報を入れていない初見の方が多かったのでしょう。ほとんど私と同じように頭に「?」が浮かんだような顔でした。
私は一人で見たのですが、知らない人同士が同じものを見て、なんとなく共通意識を感じ合うというところで「映画館で見るっていいよね」とほっこりした次第です。
まぁ変な映画でした! もちろんいい意味で!