『彼方のうた』映画感想文・理解できているかどうか、自信はないけれど

杉田協士監督の作品を初めて鑑賞しました。映画って本当に幅広い、こんな作品があるんだ…と驚きました。

余白が多いため鑑賞直後はフワフワした感じでしたが、自分なりの解釈を経て、良さをかみしめています。

印象的な場面が積み重なり、苦しさの中にも、人と人とのつながりで癒やされていく登場人物たちが表現されています。

辛さもにじみますが、希望も垣間見える、素敵な映画でした。

監督・キャスト

監督・脚本

杉田協士

キャスト

小川あん(春)

中村優子(雪子)

眞島秀和(剛)

2023年製作/84分/G/日本
配給:イハフィルムズ
劇場公開日:2024年1月5日

あらすじ

書店員として働く25歳の春は、ベンチに座っていた雪子の顔に浮かぶ悲しみを見過ごせず、道を尋ねるふりをして声をかける。その一方で、春は剛という男性を尾行しながらその様子を確かめる日々を過ごしていた。春は子どもの頃、街で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。そんな春の行動に気づいていた剛が彼女の職場に現れ、また春自身が再び雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動きはじめる。春は2人と過ごす中で、自分自身が抱える母への思いや悲しみと向き合っていく。

『彼方のうた』公式HPより引用

感想(ネタバレ含む)

語られていないので正解かどうかはわかりませんが、剛は妻か子どもか、誰か大切な人を失ったようです。

雪子もまた、冒頭の表情から、喪失感に襲われていることがわかります。

春は、二人のことを知っていて、声をかけるのは子どもの頃以来二度目とあらすじに書いてありました。

このことから、春という女性は、他者の悲しみを敏感に感じ取る力があったようです。

少し特殊能力っぽくも見えますが、そんな春も母親を亡くしているようなので、同じ辛さが感覚的に分かるのかもしれません。

初めは、春が二人を癒やしていく立場であるように見え、やがて交流を深めていく中で、彼女自身も自分の心を解き、二人に救われていきます。

互いに何があったのかを知っているのか、知らないのか、その辺りも分かりません。

ただ、集合的無意識のようなものでつながって、互いの苦しみを理解し、共感し、日々のささやかな喜びや達成感で、新しい人生を構築していくのでした。

「助けを求める人に手を差し伸べ、丁寧に関係を築いていこうとする主人公」とあります。

その行動が春自身のためにもなっていることが、見ていてよくわかりました。

ラストシーンでは雪子が春を抱きしめて、駄目だからねという言葉を発します。

これは何が駄目なのでしょう。

・雪子に元気が戻ったことを感じて、自分の役目が終わったと思い、別れを決意している。それを感じて引き留めようとしている。

・母親のことを考え続けるうちに、自ら死の影にとりつかれ、危うくなっている春の身を案じている。

どちらかではないかと想像するのですが、駅まで送ると言っていることから、春のことを心配している後者ではないかと感じました。

あの日、あの時、あの場面…という言葉の通り、どんな思いが各場面にあったのだろうと後からいろいろと考えて楽しみました。

物語という物語がないため、少し戸惑いつつも、だんだんと杉田協士監督の世界に入り込み、堪能しました。

全てが懇切丁寧に説明されて、入る余地なしという映画もありますが、こうして色々と想像できる作品は非常に面白いです。

ただ、監督が思うほど受け手側が理解できているかどうかは、難しいところかもしれません。

長編4作目となる本作で、初めての鑑賞となりましたので、今後機会があれば、ぜひこれまでの3作品を観たいと思います。

そして、今後の作品も非常に楽しみです。