『夏の終わりに願うこと』映画感想文・たった一日で子どもって成長するんですよね

病の床にある男性トナをとりまく、きょうだい、妻、とりわけ娘であるソルの、内に秘めた思いが伝わってきました。

多くの人から愛情を感じて、トナはある意味幸せだったのではないでしょうか。

映画初主演とは…!

あらすじ

ある夏の一日。7歳の少女ソルは大好きな父トナの誕生日パーティに参加するため、母と一緒に祖父の家を訪れる。病気で療養中の父と久々に会えることを無邪気に喜ぶソルだったが、身体を休めていることを理由になかなか会わせてもらえない。従姉妹たちと遊びまわることも、大人たちの話し合いに加わることもできず、いらだちや不安を募らせていく。ようやく父との再会を果たしたソルは、それまで抱えていた思いがあふれ、新たな感情を知ることになる。

2023年製作/95分/G/メキシコ・デンマーク・フランス合作
原題または英題:Totem
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年8月9日

感想(ネタバレ含む)

何を勘違いしたのか、少女が乳母に会いに行く話だと思い込んで見に行ってしまい(それは『クレオの夏休み』)、冒頭から様々な人物の登場で困惑してしまいました。

説明がなくて分かりにくかったのですが、トナの姉、妹、弟、父親、甥や姪や家政婦さんが、トナの(おそらく最後になるであろう)誕生日パーティーのために集まり、準備を始めます。

とにかく、登場人物が多く、それぞれの様子を追っているだけで物語的な起承転結がないため、どうなっていくのだろうと心配しながら見ました。

見終わるまで不思議だったこともたくさんあります。

「妻と娘ソルはトナと別居して実家で静養しているのか?離婚?その割には関係性が良いみたいだが…?」「久々に来た娘を、病気だとしても、なぜすぐ父親に会わせてやらないのか?」「なぜやたらと風呂場やトイレのシーンが多いのか?」「妹はカリカリしながらケーキを作るくらいなら、買ってくればいいのでは?」「ソルに対して、皆無関心過ぎるのではないか?」

色々と気になることはありましたが、とにかくそれぞれがトナのために「自分の良いと思うこと」をやっていきます。

まじない師を呼ぶ姉、盆栽を作る父、ケーキを作る妹…皆バラバラのようでありながら思いはひとつであることを感じます。

やり方の違いからギスギスしたり、口論になったりと余裕のない状態ですから、誰もソルに寄り添ってくれません。

唯一、家政婦さんが優しい言葉をかけてくれますが、父親との面会は叶わないし、いとこたちともうまくいかない。初めは父親と会えることに喜びだけを感じていたソルも、孤独の中で何か不穏なものを感じ取っていきます。

父親の病状が思わしくないことを次第に感じながら、ひとりでカタツムリを取ったり、オウムに話しかけたり、生き物と触れ合って命というものを見つめているようでした。他にも犬、猫、カマキリ、金魚…生き物がたくさん出てくるのが特徴的です。

最後のパーティーの場面で「何も望むことがない」と言う父親から画がソルに移り、ロウソク越しに彼女が前を見つめる様子が最後のショットとして映ります。

ここで、非常に大人びて冒頭とは違う表情のソルが見て取れます。

ただ楽しいパーティーだと思って来た時から、たった一日という短い時間で、さまざまなものを感じ取って成長した姿であり、秀逸な場面でした。

彼女は父親の回復を願ったのかもしれませんし、叶わないと分かっていながら願わずにはいられなかったかもしれません。

それもまた、この先に続く長い人生のひとつの節目、成長点です。

ソルにはとても愛情深い母親がいるので、それが救いだなと思いました。

最初に書いたように、少し説明不足で把握するまで疲れましたが、後からそれぞれの行動を思い返して納得したり複雑になったり…余韻の残る映画でした。

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