「苦い涙」感想文・誰が喜ぶのか分からないけど、面白いことは面白い

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1971)をフランソワ・オゾン監督が再構築した作品。

いわゆるミニシアター系ですが、実に味わい深く、リッチな雰囲気を楽しめる、大人の映画です。

雑なあらすじ

映画監督ピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は助手のカール(ステファン・クレポン)を傲慢にこき使いながら暮らしている。ある日親友の大女優シドニー(イザベル・アジャーニ)が青年アミール(ハリル・ガルビア)を家に連れてきたことから、美しいアミールのとりこになる。俳優志望のアミールを家に住まわせ、デビューの手助けをするが、やがて彼は去っていき…。

登場人物がたった6人の、舞台劇のような映画です。ちなみに、ピーター監督と小悪魔アミールくんはどちらも男性です。

ピーター

地位も名誉もある巨漢の映画監督が、我を忘れて恋に溺れる姿が、ものすごく滑稽であり、哀れでもあり、気持ち悪くもあり、悲しくもあります。

アミールが去ってからの、悶え苦しむ様子には、何を見せられているのかと笑いを禁じえません。

本人はいたって真面目に嘆いているのですが、完全に悲劇のヒロインとなっていて、自分の誕生日だというのに皆の前で大暴れして、それがまた面白い。

ある意味、これだけ自己表現できれば楽しいのではと思えるほどの「嘆き芸」を繰り広げます。

カール

徹底的にこき使われるカールが、無言でいいなりになっているのが、冒頭から不気味で謎でした。

雰囲気たっぷりで、気になってしょうがないのです。

時々微妙な表情になるも、本心は明かさず何を考えているのかわかりません。

彼はもしやピーターのことを好きなのかも…と思っていました。

これだけ強く当たられても、やめずにいられるのは、普通の神経ではありません。

結局ラストまで謎をひっぱりましたが、最後ビシッと締めてくれて清々しかったです。

結局一番まともだったのがカールだった、と、オチをつけるために存在していたようです。

アミール

おそらく、アミールはピーターを監督として利用しているだけで、そこに愛はなかったと私は思います。

ますますピーター監督が哀れになりますが、哀れになればなるほど、はたで見ていると面白いので、愛はなかったことにしたい、というのが本心です。

単に好みと言われればそれまでなのですが、アミール君がもっと…なんというかもうちょっと魔性タイプだったらどうだろう? と感じる部分はありました。

私のイメージではロレンソ・フェロ…ま、いいか。

まとめ

主人公の容姿がファスビンダーに似ていて、コカインを吸ったり、男優との関係もあったりしたため、ファスビンダー本人を描いているようです。

敬愛する映画監督をこのような形でリスペクトするというのも、面白いというか、いいのかな?という気もして、さらに面白かったです。

ちなみにファスビンダー監督は40年前に37歳でコカイン中毒により亡くなっていて、今作のフランソワ・オゾン監督は50代のイケオジです。オゾンもまた同性愛者のようですね。

ファスビンダーの「苦い涙」、ファスビンダー自身、オゾン自身も重なるところがあるので、様々なものが混じり合った作品なのかもしれないですね。

1970年代設定の美術も凝っていて素晴らしく、ほぼ室内劇であるにも関わらず飽きない展開でした。

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