映画に感じるものは人それぞれ違うと思いますが、レビューをざっと見渡して私と同じことを考えている人はいないようでした。
公開初日に見たので、まだ意見が出揃っていないのかもしれません。
結論としては「ラストまでは良かった」です。
【雑なあらすじ】
長いスランプで小説が書けずにいるジュニは、後輩をたずねた旅先で、様々な人に出会う。その中に今は女優を休んでいるギルスがいた。言葉を交わすうちに彼女に興味を持ったジュニは、短編映画を作る話をもちかける…。
【良かったところ】
この映画は、最後まで特別なことは起こらず、会話だけが続きます。
Aと会い、Bと話し、ABと別れてCDと出会い、Eと会い、Fが加わり…といった感じ。
ジュニは作家ならではの深い洞察力で相手を観察し、交流を重ねます。
何気ない会話の中に各々の人間性が浮き彫りとなります。
もちろんジュニも、どのような人を好み、蔑んでいるのかが次第にわかってきます。
私は意外と、ジュニは偶然を装ってギルスに近づいたのではと考えました。
双眼鏡で外を見ている時に、すでに見つけて近寄ったのではないでしょうか。
映画監督夫妻をやりこめたのは、二人を追い払ってギルスと二人になるためだったのでは、と考えたりしました。
無邪気で行き当たりばったりに見えて、実は計算があるようにも見えます。
だからどうということでもありませんが、それぐらい出会いを求めて行動することも、時には必要だと思います。
また「すべての人とうまくやらなくてもいい」というメッセージを感じて、心地良かったです。
かつて活躍していた場から距離をおいた、似た境遇のジュニとギルス。
出会いから交流、共感、そして形あるものを共に創造しようと手を取り合うまでの、人間関係の美しさをしみじみと味わいました。
【残念だったところ】ネタバレあり
SNSで見ていますと、ラストシーンに感動したとおっしゃる方が多いようでしたが、私には違和感がありました。
え!?と思ったし、ちょっと分からないところもありました。ギルスは映画の中でとても優しい表情をカメラに向けていましたが…。
・ギルスが花束を作り、一人で結婚行進曲を口ずさむ
・夫が映っていない
(設定では陶芸家の夫と出演しているはずでした)
・「愛してるよ」と声が聞こえる
(撮影者はギルスの夫の甥ではなかったのか?)
・結局撮影者はホン・サンス?
・試写を終えたギルスの表情が複雑
気になって帰宅後に検索してみますと、どうやらホン・サンス監督とギルス役のキム・ミニは8年に及ぶ不倫関係だということが分かりました。
なるほどなぁ、と、それで納得できました。
ホン・サンスはキム・ジニが可愛くて仕方ないのですね。彼女を起用して何作も作っているようです。
ミューズとか公私共にパートナーとか、ものは言いようですが、結局、堂々と不倫関係を映画で表現していたのです。
監督と不倫関係にある女優が「結婚行進曲」を口ずさむ…カメラ側からは「愛してる」の声…こんな当てつけ、恐ろしいです。
最後のシーンを入れたいがための、ここまでの話なのかもしれません。
「自分らしく生きることを主張したい」ということでしょうか。ジュニの個性は監督自身を投影したもののように感じます。
ギルスが言われたように、キム・ミニがホン・サンス監督の作品にばかり出演するのが「もったいない」と誰かから言われたのかもしれませんね。
それにしても…そうと分かっていたら見たかな? どうかな? という感じです。
最後の最後までは、とても楽しく鑑賞していたので、何かもう少し違うラストシーンであったなら、私としては好きな作品になったかもしれません。
おそらくもうこの監督の作品は好んで見ませんが、それでも、味わい深い作品だとは思います。
私には無理でしたが…うーん、そういうこともあります。映画もまた、人との出会いと一緒ですね。
勉強になりました。