『福田村事件』感想文・知らないこと、知るべきことが沢山ある

ホラー映画を結構観ますが、やはり人間が一番怖いです。そして自分も狂気に操られる可能性がある…のかもしれません。こういう映画を観ると、人間って一体何なのだろう!?と思います。

関東大震災からちょうど100年の9月1日に公開されました。とても真面目に考えさせられる映画です。

概要

福田村は、千葉県の北西部にあった利根川沿いの村です。1957年に廃止され、現在は合併して野田市となっています。

1923年9月1日、関東大震災の直後。香川県から来た薬売りの行商15人のうち、幼児や妊婦を含む9人が福田村の自警団含む村人100 名以上から虐殺されたのが「福田村事件」です。

当時、新聞や警察から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、この事件では、行商団が讃岐弁で話していたために朝鮮人と疑われ、殺害されました。

逮捕された自警団員8人のうち、懲役刑となった者も、大正天皇崩御による恩赦で釈放されました(4年後)。

100年前というと、若い方はとても昔のことだと感じるかもしれませんが、私(50代)くらいだと、それほど昔のことではありません。祖母が子どもの頃、という感覚です。

それほど遠くない時代に、このような悲惨な事件があったことを知らなかったため、興味があり、観に行きました。

当時の朝鮮人虐殺が6000人ともいわれる人数にのぼること、混乱に乗じて社会主義の指導者を殺害していたこと、唯一のメディアである新聞、官庁や警察からデマが流布したことなど、大変ショッキングでした。

この映画を観てから、知識を補足するため、ネット上で調べたのですが、映画内のメインストーリーである虐殺に関する部分が、ほぼ忠実なつくりであり、誇張したものではないことにも、あらためて衝撃を受けました。

集団暴走し、小さな子どもたち、妊婦にまで手をかけ、川に流して遺体も残さないなど、なぜこのような、残酷極まりないことが起こったのでしょうか。

映画では被害者よりも、加害者側の日常について細かく表現していました。

元々はひとりひとりに大切な家族と日常があり、仕事にいそしむ素朴な生活がある「普通の村人たち」です。

決して殺人者になるべくしてなった人たちではないのですが、不安やストレスがピークに達した時、「集団」が暴走する、抗えない力が生まれてしまったように見えました。

誤った情報から「殺さなければ殺される」という異常な心理状態におちいり、集団パニックのような現象が起こっていたのではないかと、映画から私は想像しました。

村という集団内にしっかりと根を張っている人々は同調も強く、一方、畑も持たず船頭として暮らす男性や、村を離れていた男性、初めて訪れたその妻などは、同調圧力にも流されず、自分の意志を持っていました。

そのような描き方がとてもうまいと思いました。暴走を止めることはできなかったものの、正しく物事を見つめる人が存在したのだ、というわずかな救いも感じました。

唯一のマスコミである新聞がデマを報じたことも、内務省からの通達で警察が動き、自警団の結成に至ったことも、完全な過ちであり、福田村事件を含む、多くの犠牲者を出した悲劇の元凶となりました。

このことは、多くの方が知るべき事件だったはずです。しかし、行商団が被差別部落であったことから、生存者が声を上げることができず、加害者側も口を閉ざしたことから、事件が明るみに出ないまま時が経ってしまったのです。

今、この物語を見て、現代の世の中と変わっていない気がします。

SNS上で寄ってたかって他者を攻撃することも、子どもも大人も集団の中でいじめをはたらいていることも、同じです。ひとりひとりが弱い存在であるがゆえに、集団になることで力を持ったつもりになっているのかもしれません。

ヒトの社会性とは互いに助け合い紡いでいくものであり、集団の力でマイノリティを排除することではないということを、あらためて感じました。

内容としては大変きびしいもので、鑑賞していて苦しい気持ちにもなりますが、森達也監督の真摯で誠実な映画作りに感動して、良いものを見せていただいたと鑑賞後に涙が出ました。

ドキュメンタリー的な真実の物語と、ドラマ的なフィクションが奇跡のように融合していて、ひとつの完成されたエンターテイメント作品に出来上がっているところが、本当に素晴らしいと思います。

最後になりましたが、この映画での東出昌大が、ちょっと驚くほど良かったことを追記しておきます。いろいろあったのと、演技的にもあまり印象が良くなかったのですが、山小屋での狩猟生活で一皮むけたのでしょうか!?

村から疎外されている船頭の役を、野性味あふれる雰囲気で演じておられました。この人こんなに良かったっけ…と感動でした。今後の活躍が楽しみです。

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