『ボーンズアンドオール』感想 食人描写やホラー度は?

食人への耐えられない欲望と深い孤独に追い詰められていた二人、惹かれ合ったのは必然のように思えます。ホラーというよりも、愛の物語という印象。受け取り方は人それぞれですが、食人描写はそれほど激しくない、と感じました。

あらすじ

父親と二人暮らしのマレンは人を食べる衝動を抑えられず、そのことから父親も家を出ていってしまった。自分の生い立ちを知るために母親を探す旅に出たマレン。旅先で同じ宿命を背負う青年リーと出会い、行動を共にするようになる。互いの苦しみを語り合ううちに求め合うようになる二人だが、その先にはさらなる苦しみが…。

食人描写について

R18+ということで少し身構えて鑑賞しましたが、人を食べるシーンはそれほどグロテスクかつ長時間ではありません。代わりに顔や服に血がたくさん付く演出が多かったです。血に弱い方は気をつけた方がよいでしょう。

周りを見ると、一瞬、顔を覆う女性がいましたが、退席する方はいませんでした。そういえば、席を取る時に出口近くの端の席が早く埋まっていたようです。途中退席の可能性を考えてのことなんでしょうね。

ティモシー・シャラメは見たい、でも心配、な方は早めに予約して対策されると安心です。今回のティモシー・シャラメはとても良いので、ぜひ見たほうがいいと思います。

残酷なシーンを売りにしているわけではなく、設定として、さらにはメタファーとしての食人なので、反対にホラー、スプラッター要素を求めている方は、物足りなさを感じるかもしれません。

この映画のテーマは?

若者二人が自分たちの欲望をコントロールできずに苦しむところから、出会い、共感し、愛が深まっていく過程を主に描いています。一方で、禁断の嗜好を持つがゆえに罪を犯し、逃げ続けることで、二人は孤立していきます。

親たちは同族であるため破滅していったり、子どもを見捨てたりするため、よりどころがなく一人ぼっちの者同士。深く心を通わせるマレンとリーですが、社会に紛れながら孤独を深めていきます。家もなく、人を食べなくてはいられず、殺人と窃盗を繰り返す苦しい生活です。

二人の間の愛は肯定できても、していることは肯定できないため、見ていてジレンマが起こります。感情移入すればするほど、やりきれない気持ちになるため、どの目線で見るかによって評価が分かれそうです。

破滅に向かっているであろうことは目に見えて分かるのがつらいですね。

ティモシー・シャラメ

主人公マレンの粗野に見えて優しく意思の強いところ、リーの強がっていながらもマレンに見せる繊細な表情、二人の演技がとても輝いていました。

ティモシー・シャラメは同じ監督(ルカ・グァダニーノ)で『君の名前で僕を呼んで』に出演しています。その時に感じた線の細さに、強さが加わった印象がありました。

何をしても様になる美しさがあるだけに、食人という苦しみや罪を背負っていることで影があり、ますます美しさが際立っていて、それがまた悲しみを誘うという、何とも言いようがないグルグルとした気持ちにさせられました。

KISSのレコードをかけて無邪気にはしゃぐシーンなど、食人とは無関係なだけにとても良かったです。俳優としてのティモシー・シャラメは『君の名前で僕を呼んで』よりも良かった、というのが私の感想です。

まとめ

愛に目を向ければ美しく、欲望と罪に目を向ければやりきれなさを感じる作品。

終始、社会の中にいながらも、隔絶されて二人だけの世界にいるような、不思議な雰囲気が流れています。二人の愛情に反して孤独が深まっていく、というより、孤独から愛が浮かび上がってくると言った方が正しいかもしれません。

唯一、まともに暮らそうと二人が再起をかける場面に希望が持てましたが、それもつかの間の幸せとなるため、もう少しハッピーなシーンが多くてもいいのかも、と感じました。

闇の中で唯一の理解者である相手を見つけながらも、その愛がどんな形になっていくのか…若い人たちが苦悩する、なかなか厳しい作品ですが、OKな方はぜひチャレンジしてみてくださいね!