気になっていたので初日鑑賞。泣けるとは思わずにハンカチを奥深くしまいこんでいたので結構困りました。エンドロールの間も、登場人物それぞれの心情に思いを馳せて涙…。一人で行くと誰とも話を共有できなくてつらい!
成り行きでブローカー2人と赤ちゃんと母親、養護施設の少年の5人で養父母探しの旅をします。一時的な寄せ集め、そして思惑も違いながら、生活するうちに心を通わせていく疑似家族のような設定は「万引き家族」にも共通しますが、近く別れを前提とした交流であることが違います。つかの間の幸せであり、どこか寂しい雰囲気を漂わせていて、物語に深みを与えていたように思います。
考えてみれば実の家族であっても永遠ではありません。時が経てば親が亡くなり、子どもが巣立ち、形が変わっていきます。全てのものごとが無常であることをふと意識しました。
途中まで母親のソヨンが主役のように見えていました。子どもを捨てながら舞い戻り、サンヒョンらと行動を共にするうちに母親として目覚めていく、大きな変化を遂げる役どころだったからです。
ところが、終始陽気で、赤ちゃんの世話を率先してこなし、主導者でもあるサンヒョン(ソン・ガンホ)、彼の笑顔の奥にある孤独、苦しさ、優しさ、矛盾や揺らぎ、それらが終盤になるにしたがって浮き彫りになっていきます。
なぜブローカーを始めたのか。もちろんお金のためでもあるでしょうが、捨てられた赤ちゃんに自分たち(サンヒョン・ドンス)を投影して、生まれてきた価値を与えてやりたいという気持ちが多分にあったのでしょう。
ブローカーと母親という相容れない立場の者たちが旅を通して心を通わせ、後半で母親ソヨンから存在を承認する言葉が皆にかけられます。サンヒョンはそれをどのような気持ちで聞いたのか…ここがとても味わいたいところ。
サンヒョクは最後にとある決断を下しますが、父親でいたくても自分には叶わなかった、そんな中年男性のやるせなさが画面からにじみ出ていて、同年代の私としてはぐっときました。
「パラサイト」もそうでしたが、一見どこにでもいそうな風貌でありながら、表現力、ナチュラル感が本当にすごいです。いい役者さんですよね。
矛盾があるのが人間、という気づきが今回ありました。一人の赤ちゃんの幸せのために尽くす一方で犯罪に手を染める。単なる良し悪しで見るのではなく、整合性がないこともありのままに見れば、人の心の複雑さがとても面白く感じられます。映画の楽しみ方が最近になってわかってきたような気がします。
万引きは駄目だとか赤ちゃんを売ったら駄目だとか言い始めるとどうしようもありませんからね。
結末は登場人物によって色々ですが、見終わったあとに何か爽快感というか、心が浄化されたような気持ちになりました。出自がどのようであっても、各々がどのように考えていようとも、生まれてきたことには価値があり、生きている意味が必ずある。物語を通してそう感じたからかもしれません。(これは気のせいではなく本当にそうなのですが、そのように感じられず苦しむ人が多いのもまた事実です)。
希望とか再生のようなテーマがこの映画にはあるのかなと思います。
劇場で見た映画は七~八本くらいですが、一位「ベイビー・ブローカー」二位「流浪の月」三位「トップガン マーヴェリック」かな。流浪の月も良かったけれど、すがすがしさの違いでベイビー・ブローカーが一位です。
今年後半もまだまだ面白そうな映画がたくさんあるので楽しみ。
・ほとんど出ずっぱりの赤ちゃん、よく頑張ったと思います。撮影の環境の中で様々な人に抱っこされて大変だったでしょうが、どっしりしていて大物感がありました。素朴な顔立ちでリアリティがありました。俳優さんになるかな?
・「愛の不時着」で人民班長役だったキム・ソニョンさんを確認。養護施設の園長夫人でした。
・「梨泰院クラス」でトランスジェンダーの料理長役だったイ・ジュヨンさんは刑事の部下役でした。イメージがほとんど変わりませんでした。
・「万引き家族」と比較すると、私は今作「ベイビー・ブローカー」の方が好きです。
いろいろと考えてみたい方に超おすすめです。それではまた!