見るかどうかをとても迷った作品。
ひとつは1700円という特別料金に納得できる理由がないこと。
もうひとつは京都アニメーション放火事件を想起させる表現がある(らしい)こと。
特に京アニ事件については、創作物の中で触れて消費されることに抵抗を感じました。
しかし見ないままでは何も言えません。確認する意味で鑑賞しました。
↑藤野が意地悪そうで悲しくなってくる…
目次
学年新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメイトからも称賛されている小学4年生の藤野。ある日、担任から、同学年の不登校の生徒・京本の描いた4コマ漫画を新聞に載せたいと告げられる。自分の才能に自信を抱く藤野と、引きこもりで学校に来られない京本。正反対な2人の少女は、漫画へのひたむきな思いでつながっていく。しかし、ある時、すべてを打ち砕く出来事が起こる。
2024年製作/58分/G/日本
配給:エイベックス・ピクチャーズ
劇場公開日:2024年6月28日
まず、作品としては、本当によくできていて、一時間足らずの映画とは思えない充足感がありました。
無駄なものを省き、二人の内面や関係性を凝縮させていて、これは多分原作通りなのでしょうが、そのままに製作したことが、とても良かったと思います。
私は、藤野と京本の二人が、ひとりの中にある2つの側面ではないかと考えました。
プロとしてやっていくことで損なわれていくものや、折り合いをつけなくてはいけないことがあり、京本の存在を失ったことで、アマチュア時代と真の決別をした藤野。
そして、本当の意味で独り立ちをしていく…そんな覚悟が、ラストの後ろ姿に表れているように感じました。
少し驚いたのは、藤野が「自分が京本を家から出したから、事件に巻き込まれたのだ」と苦しむ場面です。
言うまでもなく、京本は自分の意志で家から出たわけですが、彼女の人生を自分が背負っていたかのような過剰な自意識。
藤野はもしかすると京本以上に自分の感情を持て余し、生きづらさを抱えていたのかもしれません。
強烈な自我は時に自分を苦しめますが、一方でそれくらいの強さがなければプロとしてやっていけないのかもしれないと感じました。
この二人に友情はあったのか…当然あったと見ている人が多く、感動するポイントだと思われますが、私はちょっと微妙な気持ちです。
実は、彼女たちは対等な友人関係ではない、と見ています。
藤野は自己実現のために、尊敬してくれている京本を利用しているように見受けられるし、決別の時の言葉もかなり辛辣なものでした。
どちらかというと本心が出てしまったのだと思っています。
その時点でもう小さな子どもでもないのですし、将来のことは話し合うのが普通。関係のいびつさを感じずにはいられませんでした。
藤野というのは私にとっては共感しにくいキャラクターではありますが、好きなことに没頭する強固な意志に皆さんは惹かれるのかもしれないですね。
そして、残念だったのは、京アニ事件を連想させる犯人像であったこと。
これほどわかりやすく寄せる必要があったのだろうか、そもそも京本を死なせる必要があったのか、と思いました。
別の世界線で暴漢は藤野により撃退され、足を痛めた彼女は救急車で運ばれていきます。
このラストシーンはタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と同じ。
ワンハリはシャロン・テート事件から40年の歳月が流れているのに対して、京アニ事件はまだ5年(原作は2年)しか経っていません。
まだ生々しく記憶に残る事件を、別の世界線という視点で描くのは非常に残酷なことのように思えますし、時期尚早ではないかと、どうしても思ってしまいます。
そういった意味で、全面的に受け入れられるかと言えば難しい作品でした。
今のところは「二人が漫画に賭ける青春を過ごし、成長して別の道を進んでいったという物語」と、あっさりとらえたいと思います。
もっと時が経って見直したら、感じ方も変わってくるかもしれません。
鑑賞後2日、3日と経つうちに、ちょっと気が滅入ってきたので、私にはあまり合わなかったのかもしれません。この作品について考えるのはとりあえず終わりにしようと思います。