『Winter boy』映画感想文・自分でも分からないに違いない

この主人公について、ただのかまってちゃんのように言う方もいるのですが、おそらく自分でも自覚はないし、あまりに深く傷ついて、どうしていいのか分からないと思うのです。

大人でもそうですが、大切な人を失った喪失感をどのように癒やしていけばいいのかは大きな課題です。

心身ともに自分を傷つけずにはいられない主人公リュカが、大変痛々しく、こんな時、親としてどうしてあげればいいのだろうか…と考えました。

監督・キャスト

監督

クリストフ・オノレ

キャスト

ポール・キルシェ…リュカ・ロニ、主人公

バンサン・ラコスト…カンタン・ロニ、主人公リュカの兄

ジュリエット・ビノシュ…イザベル・ロニ、主人公リュカの母

エルバン・ケポア・ファレ…リリオ、兄カンタンのルームメイト

クリストフ・オノレ(監督)…クロード・ロニ、主人公リュカの父親

2022年製作/122分/R15+/フランス
原題:Le lyceen
配給:セテラ・インターナショナル
劇場公開日:2023年12月8日

あらすじ

冬のある夜、17歳のリュカは寄宿舎からアルプスの麓にある家に連れ戻される。父親が事故で急死したのだ。大きな悲しみと喪失感を抱えるリュカ。葬儀の後、はじめて訪れたパリで、兄の同居人で年上のアーティスト、リリオと出会う。優しいリリオにリュカは心惹かれるが、彼にはリュカに知られたくない秘密があった。そして、パリでの刺激的な日々が、リュカの心に新たな嵐を巻き起こす―。

『Winter boy 公式HPより引用』

ネタバレ(必要な範囲で)あり感想

クリストフ・オノレ監督が自身の少年時代を題材にした自伝的作品だそうです。

だとすれば、かなり繊細かつ無防備で、時に感情のコントロールが難しい少年であったのでしょう。

父親の自殺とも受け取れる突然の死を、受け入れられずに不安定になっていくリュカ。

パリへ行くまで、しっかりと45分かけて父親の死について描いていることから、監督の思いの深さを感じます。

その父親自身をオノレ監督がやや影のある人物として演じていました。

リュカは何人もの男性と愛のない関係を持ちますが、本当に心を許したリリオの前だけは、自暴自棄にもならず、素直な17歳の少年に戻ります。

ここで感じたのは、リュカが父親という支柱を失い、その心の隙間を埋める存在として、リリオを求めたのではないかということです。

母親も気丈夫なタイプではなく、それもリュカの精神状態に影響しました。ジュリエット・ビノシュなのでなんとなく洒落ているし、雰囲気もあるのですが、オカンには小洒落た雰囲気など不要です。

こういう時、せめて母親だけでもしっかりとしていればと思うのですが、ジュリエット・ビノシュがベソベソしてばかりで、これまた情緒不安定。

夫が突然亡くなり、悲しみと混乱の中にあるのは理解できるのですが、頼りなさを感じます。

とうとう入院まですることになってしまったリュカ。もう立ち直るきっかけがないのかもしれないと不安になります。

これまで悲劇的な結末を迎えたLGBTQ作品を何作か観てきたので、結末が気になり始めます。

リュカが突発的な行動に出ないか、親目線で心配でした。

しかし、リュカの入院している病院へリリオが現れます。

そして彼もまた苦しみを抱えているのだと、自己開示します。

ここからのシーンが素敵でした。

何も語らず、パリで過ごした時のように2人でジョギング。

思うに、リュカはリリオのことを恋愛対象として見る一方で、父性的なものも求めていたのではないでしょうか。

優しく、包容力があり、芸術家でもあるリリオは、彼もまた同性愛者ということもあり、繊細なリュカの心が理解できたのだと思います。

精神的なストレスで声が出なくなったリュカと、言葉がないまま走り、そして会話も交わさず帰っていきました。

それをきっかけにリュカは再生への道をたどり始めます。

おそらく、心の空白をリリオが埋め、生きる気力が湧いてきたのでしょう。

父親を亡くした喪失感を埋めるのは、やはり心のつながりであるということを感じました。

台詞に頼らない心模様をポール・キルシェが繊細に演じていて、また、かなりきわどいシーンもあり、若者ながら、この映画にかける本気度を感じました。なぜかいつも指あき手袋をしていて、可愛らしかったです。

クリストフ・オノレ監督にとって、自身の経験をこのような映像作品にすることは、時に苦痛を伴う作業だったのではないかと思います。監督自身も、映画化することで気持ちの整理や、癒やしに繋がっていればいいのですが。

他作品も観てみたいですし、今後の作品も期待したいです。