『Ghost Tropic ゴースト・トロピック』映画感想文・はじめてのバス・ドゥヴォス監督作品

1983年生まれのベルギーの監督、バス・ドゥヴォス。今作は四作品の内の三作目にあたります。

日本では初公開、ということで、この三作目と四作目『Here』を鑑賞してきました。

どちらもとても素敵な作品で心を掴まれましたが、私は個人的にこの『Ghost Tropic』の方が心に残りました。

多分、主人公と中年女性という共通項があるからだと思います。

↓ 自分かと思った

あらすじ

清掃作業員のハディージャは、長い一日の仕事終わりに最終電車で眠りに落ちてしまう。終点で目を覚ました彼女は、家に帰る手段を探すが、もはや徒歩で帰るしか方法はないことを知る。寒風吹きすさぶ町をさまよい始めた彼女だったが、その道中では予期せぬ人々との出会いもあり、小さな旅路はやがて遠回りをはじめる。(映画.comより引用)

2019年製作/84分/PG12/ベルギー
原題:Ghost Tropic
配給:サニーフィルム
劇場公開日:2024年2月2日

感想(ネタバレ含む)

中年の婦人が寝ているだけの、地味過ぎるキービジュアル。初めは面白いのだろうか…?と心配でした。

ただ、予告編を見ると、無性に惹きつけられるものがあり、この主人公に何が起こるのか(もしくは起こらないのか)気になって仕方なくなりました。

掃除婦のハディージャが帰りの電車で居眠りし、終点まで行ってしまい、孤独な帰路につきます。

特に大きな事件は起こりませんが、帰る道すがら、彼女は様々な人と出会い、交流を持ちます。これは人生そのもののようにも見えます。

「国や人種に依らない相通じる感性」を見い出して、私は不思議な気持ちになりました。

ハディージャの行動を目で追いながら「いちいち全部自分がやりそう!」と思ったのです。

おばさんはおばさんの気持ちが分かる、のかもしれませんね。

特に、共感して一か所、涙が出たシーンがありました。

深夜の街の若者グループの中に偶然、娘の姿を見つけた時のこと。どうやらその中の男性が気になる様子で、いそいそと身だしなみを整える娘。

声をかけるのかと思いきや、ハディージャは黙ってその場を立ち去りました。

立ち去る気持ちが、分かり過ぎて泣けました。

その後、警察に「未成年に酒を売っている店がある」と告げ口するところまで、手に取るように…私も絶対やりそうです。

また、親と子の世代間ギャップというのも感じました。

ハディージャはヒジャブを身に着けていますが、娘は生まれた時からのブリュッセル育ちで、ロングヘアをなびかせています。

娘でありながら、自分とは別の環境に育った世代。羨ましいような、嬉しいような…複雑な気持ちなのだと思います。

私も、自分と娘とは育った環境が大きく違い、そのことでしみじみとする時があります。ハディージャの気持ちが分かる気がするのです。

移民系住民であることや、深夜の労働者という共通点が一期一会に優しい交流をもたらすのも、とても心地よいです。

皆ハードな仕事に疲れているものの、たくましくこの街で生きている様子がわかります。

再び朝が来て、また淡々と支度をして仕事に出かけるハディージャは、生きる力に満ちていて希望を感じました。

ラストも秀逸で、鑑賞後感はとても爽やかでした。

この優しく繊細な物語は『PERFECT DAYS』を好むような日本人の感性に、とても合うような気がします。

「地味」というよりも「滋味」あふれる味わい深い映画でした。

他の作品も是非見てみたいです。