一夜の出来事を描いた『Ghost Tropic』から4年後、2023年の最新作。より洗練されて明るく、自然描写の美しい映画です。
バス・ドゥヴォス監督、すごくいい…大好きです。
ベルギーの首都ブリュッセルに住む建設労働者の男性シュテファンは、アパートを引き払って故郷ルーマニアに帰国するか悩んでいる。
シュテファンは姉や友人たちへの別れの贈り物として、冷蔵庫の残り物で作ったスープを配ってまわる。
ある日、森を散歩していた彼は、以前レストランで出会った中国系ベルギー人の女性シュシュと再会し、彼女が苔類の研究者であることを知る。
シュテファンはシュシュに促されて足元に広がる多様で親密な世界に触れ、2人の心はゆっくりとつながっていく。
『映画.comより引用』
2023年製作/83分/G/ベルギー
原題:Here
配給:サニーフィルム
劇場公開日:2024年2月2日
監督
バス・ドゥボス
キャスト
シュテファン・ゴタ(シュテファン)
リヨ・ゴン(シュシュ)
主人公シュテファンの休暇は表向きは1か月ですが、彼は今の生活に疲れていて、内心、私の感じ方では8〜9割がた、ここへは戻ってこないつもりのように見えました。
眠らずに歩き回り、表情にも元気がなく、おそらく心の調子も良くないのでしょう。
ベルギー・ブリュッセルの移民社会が背景で、一見自分には縁のない世界に思えましたが、田舎から東京に来た経験が、少し似ているような気がします。
私も田舎へ帰ろうと考えたことが過去にありました。でもここで構築した生活や人間関係を、何となく捨てられず、良かったのか悪かったのか分からないまま今に至る、だな…と、普遍性を見い出してしみじみしました。
この映画のキーパーソンとしてシュシュというコケを研究する女性がいます。
彼女がコケのことを「注目されないけれど、生命力にあふれた小さな森」と言う場面は印象的でした。
それはコケだけでなく、シュテファンや移民や、労働者や、私やあなた(注目されている方はごめんなさい)、さらにはこの映画そのものを指しているようです。
見過ごされそうなものに目をやり、価値を見い出すという、監督の優しく温かい視点が表現されていました。
あと、シュテファンという男性がとてもチャーミングに描かれているのも、この映画の魅力です。
いつも半ズボンなのは「もう仕事やめて自分の国に帰っちゃうもんね!」という気持ちの表れなのか、意固地なほど半ズボンです。
冷蔵庫の片付けでスープを作り、知人に挨拶がてら配って回るという人間力(人たらし力)にも参りました。なんて可愛いのでしょう。
本来彼はこうして丁寧に人間関係を紡ぐ繊細さがあるにもかかわらず、厳しい労働ですり減って疲れてしまっているのです。
一方で子どものように不器用な部分もあり、森で出会ったシュシュの後をついて行くのも微笑ましいです。
(ただ、シュシュは平気そうでしたが、森の中で半ズボンの男性がついてきたら、ちょっと怖いですよね。)
シュテファンは本名もシュテファン・ゴタさんで、監督のおっしゃるには、役どころそのままの人物だそうです。
それを聞いて、やはり人となりって身体からにじみ出るものなのだなぁと感じました。
ラストシーンはシュシュならずとも思わず微笑む展開で、ほっこり優しい気持ちになり、本当にいい気分で映画館を後にすることができました。
現在日本で12館しかやっていなくて…本当にもったいない。
この繊細でやさしい世界、もっと日本で広がってほしいです。
しみじみしたい方に超おすすめです。