『FIRST COW/ファースト・カウ』映画感想文・結末ありきでこんなに惹きつけられるとは!

冒頭で盛大なネタバレがあります。「え…こうなるの!? 分かっていて楽しめるかな…」そんな不安がよぎりましたが、全くの杞憂に終わりました。

分かっているからこそ感じる、物語中のあれやこれや。小箱を覗いているような気持ちで彼らを見守ります。夢が叶うのも映画、そして叶わないのも映画。しみじみと感じ入る作品です。

監督・キャスト

監督

ケリー・ラーカイト

キャスト

ジョン・マガロ(元料理人、クッキー)

オリオン・リー(中国人移民、ルー)

あらすじ

物語の舞台は1820年代、西部開拓時代のオレゴン。
アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルー。
共に成功を夢見る2人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。
それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛からミルクを盗み、
ドーナツで一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった――！

『FIRST COW』公式サイトより引用

ネタバレ感想

なぜか画面が正方形に近く、不思議な気持ちで見始めました。緩やかなテンポで、美しい自然と共に、彼らの貧しく厳しい生活が描かれていきます。

料理が得意な男クッキーと中国人移民のルーが再会し、楽しそうに夢を語り合いますが、冒頭の結末シーンから推測すると、叶わなかったと思われます。

そこで感じるやりきれなさ、切なさにしんみりします。

限りのある人生の中で夢を持ち、叶ったり叶わなかったりしながら人生を終えていくのは当然のこととしても、その結末がわかっているというのは何と残酷なのでしょうか。

ずいぶんこちらに背負わせるなぁ〜という気持ちにさせられます。

友情物語と先に知っていても、あまりに貧しいため、この二人に本当の友情が芽生えているのかどうか、終盤まで実感できずに見ていました。

どちらかが金品を持って逃げるのではないか、と疑う気持ちが最後まであったのです。

本当にラスト近くになり、一刻も早くその場から逃げなくてはいけないだろうと思われた時、はじめてその友情が本物であったとわかります。

貧しいまま夢など持てずに年老いていくことと、夢を語り合う友人と一攫千金を目指し共に働き、短い生涯を終えることと、どちらが幸せでしょうか。

意外と、彼らは人生を謳歌して幸せだったのではないかと思うことができました。

冒頭で感じたほどの不幸話ではないかも…という気持ちの揺り戻しがあり、鑑賞後感は以外にも爽やかでした。

気が滅入るほどのすごい貧しさと閉塞感の中、可愛い牛の存在にとても癒されました。目がくりっとしていて、本当に美人の牛さんです。

彼女にそっと話しかけて搾乳するクッキーの優しさにも、そうせざるを得ない彼らの暮らしの厳しさを感じて泣けてきました。

ドーナツをみんなで作ってハッピーになった! みたいな話ではなく冒頭から驚きましたが、しみじみとした気分になるいい映画だったと思います。

サーターアンダギーみたいなドーナツは、木切れで混ぜて作り、板の上に直に並べて売るような、あまり綺麗なものでもありませんでしたが、なんだか妙に美味しそうで、無性に食べてみたくなりました。

夢の詰まった、さぞかしおいしいドーナツだったのだろうと思います。