【映画】「流浪の月」観てきました

梅雨入りした雨の月曜日、重い映画かもしれないぞと思いながらも、3日後に終了するということで観に行ってきました。あまり泣かない方ですが、2〜3回涙が出ました。

女児誘拐事件の加害者と被害者

更紗(さらさ)と文(ふみ)、この二人しか知り得ない物語ありきでお話が始まります。当時の二人、そして15年後の二人の心模様は少しずつしか明かされていきません。

どうして?なぜ?とはやる気持ち、理由があるにせよ誘拐という事件は受け入れられないという気持ち、主人公たちの親目線になってしまう自分もいて複雑な心境を抱えながらの鑑賞です。子どもたちが苦しんでいる姿は悲しいものです。

経緯が明らかになるに従って、見ている側の私達は二人の物語の共有者となっていきます。そして、正しいかどうかの輪郭が次第にぼやけていき、物語に引き込まれていきました。「ありよう」を見つめるという境地(仏教的)に立つと、そこから俄然面白くなります。

着地点のわからないまま進む話

15年後に再会した二人に、あまりに苦しい試練が訪れ、ただただ最後まで死なないで生きていてほしいと思うように。更紗が水に入るシーンは一瞬どきりとしましたが、後からこれは変われないまま苦しみの底にいる文をすくい上げる意味があるのではと解釈すると、希望の光だったのだと思えました。

更紗もまた自分の過去と折り合いをつけながら生きており、自分の心を抑え、受け身でいることから脱却したいと望んでいました。文からその力をもらい、自分も彼のためになりたい。にもかかわらず自分がいることで彼の人生が狂ってしまうという皮肉な事実があり、葛藤や苦しみをひしひしと感じました。

それぞれが自立して離れるのか、寄り添って生きるのか…どちらにしても命は捨てないでほしいという気持ちで終盤まで見ていた私です。

魂の共鳴

互いに心に傷を負っていた二人が出会い、2か月を過ごしていくうちに積み上げた信頼関係。時を経て再び出会い、心の揺らぎを繰り返しながら歩み寄り、救われた者が救い、救った者が今度は救われる。

人間関係って実は自分が思っているより対等ではないのかな? という気付きがありました。得るばかりでもなく与えるばかりでもなく、全てが支え合って一瞬一瞬バランスを取っているのがこの世の中、と感じます。

他の人に言えないことが話せることは大切で、魂の共鳴あってこその自己開示ですね。

正しいとは、悪とは、

正しいと思う心が苦を生み出す、と最近よく考えます。更紗と文の恋人、亮と谷はそれぞれ二人のことを強く非難しますが、そこにもやはり苦しみがあります。相手を思い通りにしたいという欲や執着です。そして更紗は亮、文は谷に対して、相手の思うような自分になれないという苦しみがあります。

しかし更紗と文の間にはそれがありません。互いに、ありのままでいいというつながりです。結局のところ、それにかなうものは何もないのではないでしょうか。男女の恋愛の形が薄くすら見えてしまう信頼関係が、二人の間にできていたのでしょう。

心の居場所に戻る

彼らなりに15年間を過ごしても、得難いものとして彼らの中に残る記憶。あれが心の居場所であったと互いに分かりながらも、一緒にいれば社会的に相手を傷つけてしまうという葛藤。

暴力的なシーンもありインパクトがありますが、自分らしく生きられる相手の元に戻るまでの道のり、という優しい物語が根本にあると受け取りました。ラストは厭世的で閉じた世界に収まっていくようにも見えます。しかし実際には、時に暴力的なこの社会の中で生きていくしかない二人です。支え合っていく決意をした更紗と文に、彼らにしか共有できない幸せの形と強さ、たくましさを感じました。

そのほか

・後から思えば、アンティークショップのオーナー阿方の一言や更紗の勤め先の店長の言葉も示唆的でした。店長の引き止め?に背を向けた更紗は、これまで迎合してやってきた世の中に背を向けて文と共に生きていく決意をしたのかもしれません。

・昔(1997年)「青い鳥」(豊川悦司主演)というテレビドラマがありましたが、少し彷彿とさせるところがありました。本当の愛とは何か、求めた先に何があるのか、というのは永遠のテーマです。

・おそらくどの俳優さんにとってもキャリアの上でとてもいい作品だったと思います。特に広瀬すずさんは私の中で評価爆上がり! ヘビーな内容もありながらよく演じられて素晴らしかったです。朝ドラ「なつぞら」をずっと見ていましたが、印象が変わりました。これからも楽しみにしたいです。

・DV→ストーカーの部屋に単身で戻ってはいけない。相手は刃物を持っているし、超危険。

・男性と去っていったシングルマザー安西さんの子どもがどうなったかとても心配で、ちょこっと回収してほしかった気がします。そこだけ☆マイナス0.5かな?

とてもいろいろなことを考えさせられる作品でした。

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