『パターソン』映画感想文・同じような1日でも「昨日とは違う今日」を生きている

最近のジム・ジャームッシュ監督作品に触れていなかったので、映画館で観てきました。

今はこういう作風なんだ…と興味深々でした。

独特なテンポも楽しく、幸せな気分になれる作品でした。

あらすじ

ニュージャージー州パターソン市で暮らすバス運転手のパターソン。朝起きると妻ローラにキスをしてからバスを走らせ、帰宅後には愛犬マービンと散歩へ行ってバーで1杯だけビールを飲む。単調な毎日に見えるが、詩人でもある彼の目にはありふれた日常のすべてが美しく見え、周囲の人々との交流はかけがえのない時間だ。そんな彼が過ごす7日間を、ジャームッシュ監督ならではの絶妙な間と飄々とした語り口で描く。

2016年製作/118分/G/アメリカ
原題:Paterson
配給:ロングライド
劇場公開日:2017年8月26日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

事前情報はないままに観たのですが、内心「なにも起こらないのでは?」と思っていました。

ですから、少し事件が起こって意外でした(そうは言っても犬がノートを破るという程度)。

大きな事件が起こらず、日常が淡々と流れる映画は最近ですと『パーフェクト・デイズ』が記憶に新しいです。

しかし、私はこの映画の方がずっと好きだなぁと思いました。

『パーフェクト・デイズ』は、平山の隠された過去や企業案件が見え隠れするのが少し気になったのと、情感を引き出そうとしているような、少し強引なラストシーンがあまり自分にハマらなかったのです。

それはそれとして、どこにも忖度のない日常が描かれているのが今作です。

パターソンが素人ながら「詩人」であるということが、この映画の重要なところ。

バスの運転手であり、淡々と日々の仕事をこなすパターソンは、傍目からは単調な毎日の繰り返しに見えます。

しかし、彼にとっては毎日目に映るもの全てが詩作のヒントとなっていて、自己表現することに大きな喜びを感じているところが、とても素敵です。

同じように通勤し、仕事をしても、決して同じ毎日ではない。

そう感じられることは、本当に幸せなことです。

妻ローラはアーティスト肌(センス微妙)(料理下手)ですが、美しく、優しく、愛情にあふれていて、二人のやりとりもほのぼのとしています。

奥さん最高じゃないの、詩のノートも大切だけど、こんな奥さんがいるならオールオッケーだよパターソン… と言いたくなりました。

彼のような「詩人の視点」があれば、新しい詩はまた生まれるだろうという、希望の芽を感じる話で、本当に素敵な映画でした。

パターソンの感情を抑えた演技が、内面の吐露としての詩の朗読を引き立てていて、非常にバランスがいいことと、独特な間合いと会話が健在なこと、そして犬の可愛さにも参りました。

パルム・ドッグ賞受賞のイングリッシュ・ブルドッグ、ネリーちゃん(役名マーヴィン)がたまらなく可愛くて、癒やされました。

最後に永瀬正敏が出てきて、結構唐突だったため「彼は人間として出たのかな、何か示唆を与えるための、不思議人物? 妖精?」と思いを巡らせるのも楽しかったです。

月曜日から一週間を描き、日常系で2時間はちょっとだけ長いかな?という気もしましたが、ジム・ジャームッシュの世界をたっぷりと味わえて、よい時間を過ごせました。

独特のリズム感がある監督作品はやはり好きだな〜と思いました。

ケイト・ブランシェット参加とウワサの新作が早く見たいです。