『箱男』映画感想文・下手に考察する方が恥ずかしい

難しい作品のように思えますが、見た人それぞれが自由に感じればいいのではないでしょうか。

シュールで面白い作品でした。

意識せざるを得ない「箱男」

あらすじ


ダンボールを頭からすっぽりと被った姿で都市をさまよい、覗き窓から世界を覗いて妄想をノートに記述する「箱男」。それは人間が望む最終形態であり、すべてから完全に解き放たれた存在だった。カメラマンの“わたし”は街で見かけた箱男に心を奪われ、自らもダンボールを被って箱男として生きることに。そんな彼に、数々の試練と危険が襲いかかる。

2024年製作/120分/PG12/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年8月23日

                                         『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

安部公房の『箱男』は高校生の頃に読みました。

難解でしたが「安部公房という人はめっちゃ頭が良いので解読できなくても良い」と判断し、その世界観、雰囲気を楽しみました。

なんだか奇妙な小説で、多分今読んでもよく分からないでしょう。

この映画にしても、わかったような顔で下手に考察する方がよほど恥ずかしい気がするので、感じたままを書きます。

「箱男」が小説として書かれた時代にインターネットはもちろんありませんでしたが、現代のネット文化と符合する点が多いと思いました。

箱男は匿名の人物です。自分のアイデンティティは必死で書きつけた日記(それも妄想)だけ。

ふとネット上の自分に置き換えてみると、箱男と同じで「誰でもなく」「あらゆる人間でありうる」という言葉が合っている気がします。

誰でもない存在になり、一方的にこちらから眺めるというのは、案外心地よいもので、自らの妄想というアイデンティティは必死で書きつけた文章のみ…まるで同じだと思いました。

安部公房も、主役の永瀬正敏さんも、箱の中に入ってみたら「なかなか気持ちの良いものだった」「落ち着いた」と話されていました。

現実の自分に箱をかぶせて生きる…自分でない者になる、というのは、何か心躍るものがあるようです。

それだけ、生身の人間にはしがらみが多いのでしょう。

一方で匿名性の中で生きることにより、時に攻撃されて傷つき、悪事に利用されそうになり、その立場を乗っ取られそうになる、というネガティブな面もあることを、この映画は示しています。

1973年に、これほど先を見越した小説が書かれていたのかと驚きます。

50年後の今、映画化されたのにも驚きますが、その内容が非常にシュールであり、自分のイメージしていた安部公房の世界がそのまま映像化されていて、現代に昭和の空気を持ってきたかのような、不思議な感じがありました。

わたし(永瀬正敏)の葛藤。

ニセ医者、浅野忠信の妙に軽薄なたたずまい。

軍医(佐藤浩市)の変態度(笑)

白本彩奈さんの熱演と古風な雰囲気のハマり具合。

箱男同士の戦いやワッペン乞食との攻防。

シュールながらも面白いシーンがたくさんありました。

特に白本彩奈さんの演技、雰囲気は、腹が据わっていてとても良かったです。

「箱男を意識する者は箱男になる」ということで、今日も私は一日のうち半分くらい(今もまさに)箱男になっていますが、義務も権利もないこの場所に愛着があるのも確かです。

最後に「箱男は…あなただ!」と言われた時には(あ〜言っちゃった)(皆まで言うな〜)と思いましたが、時間が経つと、まあその通りだしな…という気持ちになりました。

配信になったらぜひもう一度見てみたいと思います。

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