『異人たち』映画感想文・暗い話だった…

私は山田太一の原作小説、大林宣彦監督の映画「異人たちとの夏」を見ていないのですが、この映画、リメイクと言いながら、設定だけ似た異なるものだろうなと思いました。

これはこれでいい、と言うしかない作品。

オリジナル作品に思い入れのある方は特に、別物と考えた方がいいと思います。

あらすじ

12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム。ロンドンのタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。その一方で、彼は同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちるが……。

2023年製作/105分/R15+/イギリス
原題:All of Us Strangers
配給:ディズニー
劇場公開日:2024年4月19日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

主人公アダムはゲイであることの悩みや(自分で認めたくない?)人に心を開けない問題を抱えており、亡き両親との不思議な出会いにより、癒やされていきます。

しかし、何がまずかったかというと、ドラッグを使用していたことではないでしょうか。

本来オリジナルでは、亡くなった人が目の前に現れることが、集合的無意識の世界であったり、幽霊や幻や不思議、というファンタジーとして描かれていたはずです。

ドラッグの使用で異人が見えてくるとなると、ただの幻覚であり、本人都合の存在となってしまいます。

ドラッグによって救われていくという話になると、とても容認できません。

それが残念なところです。

また、家族・親子の話というよりも、ゲイとしてのアダムとハリーの関係性がクローズアップされており、ベッドシーンもかなり多く、そこもちょっと違うかな、というところでした。

LGBTQの映画はよく見ますし、好きな作品もたくさんありますが、この映画に関しては、親子関係に重点を置いたほうが絶対に良かったと思うのです。

まぁこれも、個人の好みであり、正直なところ中年男性同士というのがあまり自分にヒットしないというだけかもしれません。

準主役ハリー役のポール・メスカルがなんともいえず優しく、いつも少し悲しげで、何かを心に抱えた憂いのある演技で良かったです。

2023年の映画『アフターサン』でも今は亡き父親という役どころで、傷つきやすく優しい男性を演じていました。

そのハリーも実は両親と同じように亡き者、異人だったわけですが、終盤のその表現がややサスペンス的であり、結構な衝撃展開でした。

ドラッグ、風呂場で孤独死という惨状。

アダムは自分がハリーの孤独を癒やす助けになっていたことで、人とのつながりが生きる支えとなることを知るのですが、変わり果てたハリーの姿を意外にも受け止めていたように見えました。

心のどこかでハリーが異人であることを分かっていたのかもしれません。

自分の心が生み出した理解者だったのかな、と私はとらえました。なぜならクスリをやっていたから。

やはりゲイであることはともかく、ドラッグを出してきてはいけなかったような気がします。

そんなわけで、全体的に暗い話であり、希望が見い出せるラストだったかどうかは微妙でした。

異人たちとの邂逅が、短い夏と共に過ぎ去っていくという郷愁がプラスされたら、もっと味わい深い作品になったかもしれません。

順序が逆になりますが、大林宣彦監督の作品を見てみようかなと思います。