『リバイバル69 伝説のロックフェス』感想文・数々の無茶に場内笑いで包まれる…

これはすごく面白かったです! とにかく今では考えられないような「無理が通れば道理が引っ込む」状態。なんでもありのカオス。

よくこれで成立したな! という奇跡のフェスの裏話です。

私は50年代の音楽をあまり聴いてこなかったので、迷いましたが、観に行って良かったです。

少し残念だったのはライブ映像がどれもダイジェストだったことです。ドアーズに至ってはダイジェストすらなく「ここまで見せておいて…う〜ん」という気持ちに少しなりました。

フェス出演アーティスト

チャック・ベリー

リトル・リチャード

ジェリー・リー・ルイス

ボ・ディドリー

ジョン・レノン&ザ・プラスティック・オノ・バンド

アリス・クーパー

ドアーズ

シカゴ

etc…

ロックフェス概要

「トロント・ロックンロール・リバイバル1969」はカナダのトロント大学で行われた12時間に及ぶロックフェス。

主催者はケン・ウォーカー(23)とジョン・ブラウワー(22)の若者二人。彼らはカナダのトロントでフェス運営をやっていました。

ロックンロールの復活と銘打って、往年のスターを集めフェスを開くことを思いつきました。

大物アーティストたちのスケジュールが9月13日しか空いていないという理由で、この日に決定したそうです。

以下、ネタバレありです。

無茶その1・当初チケット売れず

発売当初、2万枚のチケットが2千枚しか売れませんでした。凄い顔ぶれなのですが、時はビートルズ終焉、ヒッピー文化の頃。一世代前のスターに訴求力がなかったのかもしれません。それにしても2000枚とは寂しい限りです。

若いプロモーターが「他所で集客できていたから!」とノリでブッキングし、見込みが外れたというわけです。

さて次の一手は…

無茶その2・今どきアーティストに打診!

赤字を防ぐためには、最低でも9000枚チケットを売らなくてはなりません。

ロックリバイバルなどと言っていられなくなり、当時大人気のドアーズやシカゴ、アリス・クーパーなど、新時代のアーティストをブッキングしていきますが、それでも足りません。

公演まで一週間、ジョン・ブラウワーは音楽プロデューサーから「MCをジョンとヨーコに打診しろ!」と言われます。

ジョンはチャック・ベリーやリトル・リチャードのファンだから、来てくれるのではないかというわけです。

当時、ビートルズは解散直前の状態。ライブからも遠ざかり、ジョンはオノ・ヨーコとべったりの頃です。

ジョン・ブラウワーが震える手で電話をかけると、チャック・ベリーが来るなら…と、まさかのOK。

飛行機代だけ、しかもMCではなくバンドとして参加するというのです。やってみるものですね。

おかげでチケットは即完売。映画撮影も入ることになりました。

無茶その3・ジョンの集めたメンバーが凄い

「ジョン・レノン&ザ・プラスティック・オノ・バンド」はこれが初ステージとなります。ジョン・レノンが集めたメンバーは…

ジョン&ヨーコ

ギター エリック・クラプトン

ドラム アラン・ホワイト(のちイエス、突然ジョンから「明日来い」と言われる)

ベース クラウス・フォアマン(リボルバーのジャケットを描いた人)

ちなみに、ジョージ・ハリソンからは断られました。

無茶その4・ジョン朝起きて「行かない」と言い始める

気まぐれなのか繊細すぎるのかヤンチャなのか…フェス当日の朝になって「気分が悪いから行かない、花でも送っておいて」と言い出すジョン。責任感まるでなし。

聞いているだけで心臓がバクバクします。

電話で説得、エリック・クラプトンは空港に来ていると説明、それでやっと「じゃあ、行こうかな」という話になりました。怖すぎます。

エリック・クラプトンにしても、空港に来ないから迎えに行って連れ出したくらいで、綱渡り状態です。

その日の公演にもかかわらず、搭乗した時点で曲も何も決まっていません。飛行機の中で音合わせのようなことを行います。

プロだからできるでしょうが、行き当たりばったり感が凄くてヒヤヒヤします。

無茶その5・ギャングから借金

運営にあたって、バガボンズというバイクギャングから借金をしました。おそらく麻薬の密売などでお金を持っていたのでしょう。

到着したジョン達が乗った車をバイカー70名が取り囲み、会場まで先導します。

なんでそんなことになるのか謎だし、必要だったのか?とも思いますが。

無茶その6・楽屋でコークを所望

プラスティック・オノ・バンドお披露目の日となり、かなりナーバスになっていたジョン。繊細な人なのです。

コーラではなくコカインの方を求めました。安物ですが…と言いつつすぐに調達して来るのが、さすがこの時代です。

コカインのせいで激しい吐き気に襲われ、出番前にジョンは舞台袖で嘔吐。

無茶その7・チャック・ベリー、ぶっつけ本番

リハなし、ぶっつけ、バンドは現地調達! 自分はいいけど周りは大変です。いつもそうだというから驚きです。

チャック・ベリーのバックを務めるなど、とても光栄なことではありますが、舞台袖で初めて会っていきなり演奏しろとはなかなか乱暴。

キーさえも教えてもらえず、成り行き任せで探り探り演奏しているのが分かります。冷や汗が出ますね。

まぁ、いい経験ですかね。

無茶その8・リトル・リチャード、ピンスポにしろとゴネる

ミラーボールのような衣装のリトル・リチャード。スポットライトにしないと意味がない、出ないとワガママを言います。

言われる通り照明を消して人間ミラーボールのようになりますが、正直効果的かどうかは微妙だった気がします。

自己満足ですね。

無茶その9・アリス・クーパーがクレイジー過ぎ

「世界第9の不思議」と紹介されたアリス・クーパー。凄い衣装だと思ったら自前でした。

ステージ上では枕を破ったり、ニワトリを投げたり、大暴れ。事実は投げただけだそうですが、翌日の新聞にニワトリを噛みちぎって殺し、血を吹きかけたと掲載され、伝説となります。

どちらにしろ、死んでしまったニワトリは可哀想ですね…連れてきた人もちょっとおかしいです。

インタビューでは見た目はあまり変わっていませんが、普通に落ち着いた優しそうなおじさんになっていました。

無茶その10・オノ・ヨーコ奇声を上げたり袋に入ったり

前衛芸術家として活動していたオノ・ヨーコはジョン・レノンとその年に結婚しています。

そのため最もラブラブだった頃とも言えます。

色々と批判を受けていたと記憶していますが、今回の映画やビートルズのルーフトップ・コンサートの映像を見ると、不思議と悪いイメージは起こりませんでした。

なんとなく…納得できる二人という感じです。

私は子どもの頃、どうしてジョンがオノ・ヨーコを選んかだのか、不思議で仕方ありませんでしたが、繊細過ぎるジョンに寄り添い、力を与える存在だったことが今はわかるようになりました。

ただ、このパフォーマンスは観客を非常に戸惑わせたと思います。

袋に入って姿形を見えなくすることで偏見や固定観念を風刺し、平和を希求する叫び声を上げる。

今となっては解釈できますが、ジョン見たさにチケットを取った観客には「何だこれ!!」というものだったでしょう。間違いなく。

やっていることに意味があったんだなぁ…茨の道だっただろうに。と今は思っています。オノ・ヨーコももう90歳だそうです。時の流れを感じますね。

まとめ

偶然の産物と言ってもいい、奇跡のフェスです。54年前の映像にとても楽しませてもらいました。

思いのほかスリリングで、笑えて、味わい深く、大変満足でした。

ドアーズが見たかったのですが、撮られることに神経質になっていたようです(この年過激なパフォーマンスで逮捕)。

この二年後にジム・モリソンが亡くなっていることを考えると、惜しいですね。

これは二人の若者がフェスを開催した騒動記であり、ビートルズの終焉〜ジョンとヨーコの新たな活動の始まりであり、新旧アーティストの共演であり、60年代のカウンターカルチャーの記録でもあります。

私のような70年代頃からの(さほど詳しくない)音楽ファンにも十分楽しめる内容なので、興味のある方はぜひご覧になってみてくださいね。