『海の上のピアニスト』(1999)映画感想文・なぜ船から降りない?って訊かないで…

午前十時の映画祭で観ました。先に『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を見ていたため、音楽も楽しみのひとつでした。同じジュゼッペ・トルナトーレ監督です。

あらすじ

1900=ナインティーン・ハンドレッドが生まれたのは、大西洋を巡る豪華客船ヴァージニアン号の中だった。

ピアノの上に置き去りにされた彼を拾ったのは機関士のダニー。船の上で育てることを決意するが、幸せな生活は長く続かず、1900が8歳の時に事故で亡くなってしまう。

葬送の時に流れていたピアノに心惹かれた彼は、ピアノを弾くようになる。

やがて彼は、船内のダンスホールで即興のピアノを次々と演奏し、注目を集めていく。

ある日、彼は船内で見かけた美しい少女に心を奪われる。彼女が船を去った後、断ち切れない彼女への想いから人生で初めて船を下りることを決心する…。

1999年製作/121分/G/イタリア・アメリカ合作
原題:The Legend of 1900
配給:シンカ
劇場公開日:2020年8月21日

その他の公開日:1999年12月18日(日本初公開)

感想(ネタバレ含む)

1900が実在したのかどうか、わからないとマックスは楽器店の主人に言いました。

それを聞いて「なるほどそういう見方もあるなぁ」と感じました。

1900は、名前の通り、ひとつの時代を具現化した存在だったのかもしれません。

考えてみれば、1946年に解体される時のヴァージニアン号は朽ちており、1900がひとりで船に居残り続けることは現実的に不可能です。

旧友のマックスが爆破前に会ったのは、現実の1900ではなく、船の亡霊のようなものだったのかもしれません。

彼は1900 (=時代)の最後を見届ける役目を背負っていいたのです。

いささか現実離れしたエピソードであり、ティム・ロス演じる1900の人物造形も少し個性的でした。

ファンタジーともとらえることができます。

とはいえ、物語がよくこなれていて分かりやすく、世界観に没入できました。

音楽は言うまでもなく素晴らしく、特に窓の外の少女に心を奪われながら演奏するシーンは音楽、表現ともに感動的です。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の「デボラのテーマ」もモリコーネですが、あのシーンを彷彿とさせる、眼差しで愛を表現する素晴らしい場面でした。

この恋がうまくいかないであろうことは、なんとなくわかりますから、さらに切なく感じました。

1900は結局ヴァージニアン号を下りることなく人生を終えました。

一度は少女の後を追って降りかけたものの、再び船に引き返します。

物理的には歩を進めるだけの簡単なこと。それでも陸へ降りられない1900は、悲しみというより、気付きを得た表情でした。

本当は陸にしたって船を大きくしたような「限りある世界」ですが、1900にとっては終わりのない未知の世界だったのでしょう。

悲しいながらも、この気持ちに共感できました。

たとえば永遠の命が欲しいかどうかと言われたら、終わりのないことに怖さを感じると思うのです。

限られた時間の中で生きていくからこそ、人生が輝くのです。

船はやがて終わりがきます。それが大型客船では50年と言われます。

ヴァージニアン号は1900の人生そのものであり、ひとつの歴史であり、世の中の縮図であり…さまざまな意味を含んでいたのです。

私は船の栄枯盛衰に自分の人生を重ねて考えてしまいました(笑)

旧作の劇場公開は間違いない作品ばかり。本当にありがたいことです。