『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』映画感想文・素晴らしい! 完璧!

これは…本当に素敵な作品でした。

嫌われ者の他人同士のクリスマス休暇、ですが、ここに理想の親子の関わり方を感じて、とても勉強になりました。

あらすじ


物語の舞台は、1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。生真面目で皮肉屋で学生や同僚からも嫌われている教師ポールは、クリスマス休暇に家に帰れない学生たちの監督役を務めることに。そんなポールと、母親が再婚したために休暇の間も寄宿舎に居残ることになった学生アンガス、寄宿舎の食堂の料理長として学生たちの面倒を見る一方で、自分の息子をベトナム戦争で亡くしたメアリーという、それぞれ立場も異なり、一見すると共通点のない3人が、2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすことになる。

2023年製作/133分/PG12/アメリカ
原題:The Holdovers
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年6月21日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

ポール・ジアマッティが素晴らしいのは言わずもがなですが、アンガス役の新人のドミニク・セッサさんがとても良かったです。

見た目は大人っぽい高校生ながら、やんちゃで繊細で、まなざしが少し寂しげで、親の年代の私から見ると、本当にかわいらしいのです。

台詞も多いし、ベテランのポール・ジアマッティと対等にやり合って遜色なく、逸材っているのだなぁと驚きました。

こんな息子がいたら、めっちゃ可愛がるのに〜。しかも頭が良くて優秀なんですよ、最高。

しかし彼は、心に満たされないものを抱えていて、教師のポールもまた複雑さを抱えています。

そこに息子をベトナム戦争で亡くしたメアリーも加わり、凸凹で不思議なクリスマス休暇を過ごすわけです。

一見、ありがちなハートウォーミングな物語かと思いきや、人間関係、信頼関係の構築を丹念に描いていて、人生の機微やほろ苦さも秘めているお話。

アンガスはまだ心の中に幼さを抱えていて、父親がいるものの、頼れる、導いてくれる存在ではないために、不安定な状態。

ポールは持ち前の真面目さ、厳しさでアンガスに接して、当然反発を受けるわけですが、素晴らしいと思うのは、どんなに彼が荒れても、一切見捨てないところにあります。

これが愛のある厳しさです。皆から嫌われている? すごくいい先生じゃないかと思いました。

くだらないことでもたくさん会話する、ダメなものはダメと言う、秘密の共有もする、時に多少のルール違反も目をつぶってやる。

こんな普通のやりとりをして、同じ時間を過ごすことで(なんと寝る場所も一緒!)、子どもは自分が認められていると感じるようになるのでしょうね。

ポールに器用さが全くないところが微笑ましく、かえってそれも彼の一生懸命さが伝わって良かったのかもしれません。

アンガスの求めていた父性が、ポールによって少しずつ満たされ、信頼関係ができていく様子が、とても巧みに自然に描かれていて、これは上手いなぁ〜と感心しました。

ポールはポールで、過去のできごとから頑なになっていた部分があり、アンガスを導くことで味わったことのない家族のような愛情を知り、心がほぐれていき、

料理長のメアリーにも、息子を失った喪失感から少しずつ癒やされ立ち直っていくというストーリーがあります。

なんか完璧で、うますぎないか!? と思うほどよくできています。

文句のつけようがない、美しく丸められた映画で、今年は今のところ80本くらい見ていますが、お気に入りの上位数本に入る作品となりました。

しいて言えば、台詞でみっちり埋められていて、あれこれ想像する余白が少なく、見たままで完結してしまっているところでしょうか。

気に入った割には、余韻があまりないのは、そのせいかもしれませんが、とにかく良かったので余韻とかどうでもいいや!と思いました。