岩井俊二の作品は自分にはあまり合わないと思っていたのですが、広瀬すずが出演しているので観に行きました。私はものすごーく広瀬すずを信頼しているのです。
そして、やはり広瀬すずは凄い、いてくれてありがとう! と感謝しました。
また、アイナ・ジ・エンドの歌も雰囲気があって良かった(もっと上手いはずとは思いましたが)。
松村北斗さんが、繊細な演技をされていて、すばらしい!
映像はもちろん美しいです。
ただ…感想は人それぞれということでお許しいただきたいのですが、私には嫌悪感がありました。2、3日気が滅入ってしまいました。
物語は2010年の石巻、2011年の大阪、2018年の帯広、2023年の東京を舞台に、群像劇のように進んだものが、やがてひとつになっていきます。
現代での謎が過去で解き明かされ、また逆もあるので、それぞれの物語が興味深く、飽きることなく3時間が過ぎました。当然、音楽映画としての充実感もあります。
主役はキリエとルカの二役としてアイナさんがとても頑張っていて、歌に関してはもちろん良いのですが、役柄的に不安定さがどうしてもあり、そこで広瀬すずの圧倒的存在が、ものすごく安心感をくれました。
演技の安定感、ブレのなさ、そして最高に可愛く、途中で一度いなくなると、なんとなくこちらも不安な気持ちになりました。役どころの善人か悪人かは関係ないのだなと思いました。まったくすごい俳優さんです。
ただ、それはそれとして、アイナの歌を聞かせたいという思いに監督が全振りしたのか、設定がところどころ不自然で気になりました。
たとえば、
ルカとイッコの再会で、朝になるまでルカがイッコのことを友人だと気づかないのはおかしいのでは?
これまで路上ライブだけで生活、ホームレスって…さすがに無理がある。
震災の時にキリエを下着姿にしておく必要があったのか?
ルカが音楽関係者から認められる過程が、スムーズ過ぎないか?
イッコが姿を消した後、居候していたIT会社社長が唐突に襲ってくるのが、不自然かつ不要に思える。
などなど。
そしてさらに鑑賞後感を悪くしているのは、キリエ(姉)についてです。
医者の家で、自身も医学部を目指している夏彦を誘惑(という風に見えた)して妊娠、夏彦の家に知らせないまま妊娠を継続、夏彦は父親になる覚悟ができないまま時が流れ、大阪の大学に行くことになる。
そこでの震災…なかったことにしたい気持ちがあるとはっきり言っていますが、心のどこかで「キリエが死ぬかもしれない」と思っていたのではないでしょうか。
確かに、通じている電話では引き止めていた夏彦でしたが、激しく動揺していたことから、自分の想像(キリエの死)の恐ろしさにパニックを起こしているように見えました。
キリエに愛情がすごくあったようには見えず…結局、妹ルカの世話をしたのは、彼なりの罪滅ぼしではなかったのか。
残酷な想像ですが、そう見えました。
夏彦はその後とても苦しんでいるようでしたが、どうもキリエを失ったことより、自分の弱い内面について悩みを抱えているようでした。
松村北斗さん…難しい役どころでしたが、すごく良かったです。二人が愛し合っているように見えるような見えないような、微妙さ加減が最高でした。いい演技をされていて、やっぱりいい! お上手です。
はっきりと認識したのは「カムカム・エブリバディ」で、あれもすごく素敵だったんですよね…。
その夏彦を含む、登場人物は皆それぞれ、生きづらさや困難を抱えながら生きているのですが、どう考えてもキリエ(姉)が一番哀れに思えて悲しく、鑑賞後のモヤモヤにつながっているのかなと感じました。
愛されていないのに妊娠して、自分の側だけ話をつけて出産を決めたものの、相手の親には紹介してもらえず、受験があるといっても連絡は途絶えがち。たまに電話があったら舞い上がって風呂に入る(本当に謎)、制止も聞かずに坂を下りていき津波の被害にあう…なんだか全てが間違っていてやりきれません。
自分の行動が影響して、結果的にキリエが亡くなったとしても、ルカは姉の人生を代わりに生きる必要はないし、夏彦は責任を感じることもないと言ってあげたい気持ちでした。
それぞれが自分の人生を生きて、ルカもキリエのうたではなく「ルカのうた」を歌えばいいのです。
ラストではルカがひとりでたくましく音楽への道を歩み始める姿が、わずかですが映し出されていて、少しほっとしました。
岩井俊二の趣味嗜好にいつも通り若干の気持ち悪さがあり、映画そのものは好きにはなれませんでしたが、主題歌の「キリエ・憐れみの讃歌」はとてもいい曲だと思いました。
アイナ・ジ・エンドの歌が好きな方は、たっぷり聴けるので必見です。