『ポトフ 美食家と料理人』映画感想文・100年前の料理シーンが芸術的(ポトフを作る話ではない)

冒頭がクライマックスです。100年前の調理場面と料理を再現した素晴らしさ。また、調度品や衣装など美術も豊かに表現されていて、いいものを見せてもらった、という眼福の作品です。

ドダン(美食家)とウージェニー(料理人)の深く奥ゆかしい愛情のやりとり、そして互いに自立し料理の高みを目指す崇高さに感銘を受けました。

監督・キャスト

監督

トラン・アン・ユン

キャスト

ジュリエット・ビノシュ(ウージェニー)

ブノワ・マジメル(ドダン)

2023年製作/136分/G/フランス
原題:La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)
配給:ギャガ
劇場公開日:2023年12月15日

あらすじ

〈食〉を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー。二人が生み出した極上の料理は人々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざりする。〈食〉の真髄を示すべく、最もシンプルな料理〈ポトフ〉で皇太子をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは人生初の挑戦として、すべて自分の手で作る渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが ── 。

『ポトフ』公式HPより引用

感想(ネタバレ含む)

冒頭の料理を作るシーンには本当に魅せられました。現代のような便利な調理器具はなく、凝った料理を素朴な道具、手作業で生み出していきます。

水さえも井戸で汲んでくる時代、しかしその手際の美しさ、そして料理のおいしそうなこと!

ドダンとウージェニーの関係も、料理を生み出す過程の中で見せていきます。

主従ではなく、夢を具現化するための信頼関係で固く結ばれていて、互いに自立している姿がとても美しいのです。

100年前の城主の男と料理人の女性では、ふつう対等な関係にはなり得ないですが、ウージェニーの能力を認め、尊重し、一人の自立した女性として向き合うドダンが紳士的で素敵でした。

ジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルは実際03年までパートナー関係にあって、娘さんもいるそうで、後から思えば二人の間に漂う空気感は、親密でこなれたものに感じられました。

冒頭のようなストーリーに関係のないところを延々と撮り、物語的なところは省略する部分あり、不思議な展開の映画でした。

現実的なできごとよりも映像美に注力しているため、鑑賞後の余韻が美しかったです。

ウージェニーが病に倒れる展開で、シリアスになりがちな物語に賑やかさを添えたのは、ドダンの仲間の美食家グループです。

暇なのか何なのか、美味しいものを食べては、わちゃわちゃしているだけの仲間ではありましたが、ホッとする存在であり、彼らがいなければ少し息が詰まったかもしれません。

あと、最後のカメラがぐるりと厨房を見渡すシーンは最も印象的でした。

ウージェニーを失って失意の底にいたドダンが、再び新しい料理人を探すために出ていき、誰もいなくなった厨房。

回転とともに時が戻り、ウージェニーが蘇ります。

とてもロマンチックな演出であり、こんな風に見せるなんてズルいよ…と涙しました。

私は食にあまり興味がないため、この作品を観ようかどうしようか迷いました。

予想では「美食家(男)と料理人(女)が二人で究極のポトフを作る話」だったので、たいして興味が持てず、公開されてから1か月も過ぎての鑑賞です。

本当に観てみないと分からないもので、非常に楽しめました。

そして、観終わった今でも、ちょっと変わった映画だったなぁと感じています。

まだ少し戸惑っているため、できればもう一度、しっかり鑑賞したいです。

お料理のお好きな方には、本当におすすめします!