実に不思議な映画でした。
途中少し寝てしまったのですが、だからといって面白くなかったわけでは決してなく、
独特な色彩でポップですが、どこか物悲しさを秘めており、
見たままのカワイイだけの映画ではないという印象でした。
わかりにくいといえばわかりにくい。でも少し歩み寄ってみたい気にさせられる映画でした。どこまで近づけるかわかりませんが。
劇中劇の「アステロイド・シティ」は演者がみな無表情でこちらを向いて単調にセリフを発します。
時々面白げな場面もあるにはあるのですが、淡々としているためシュールに見えますし、正直それほど奮ったギャグもなく、たいして面白くはありません。
最大の笑えるシーンは宇宙人が現れた時の挙動不審な様子でしたが、それもまぁ…そんなものかな、という印象。それほど本気で笑わせようと思っていないように見受けられます。
それよりも、表現したいことは別にあるような気がしました。
例えば、主人公のオーギーやミッジには、見た目のポップ感とはおよそ似つかわしくない、心の傷があります。
キッチュさでコーティングされて生々しく語られないため、忘れそうになりますが、直視できない悲しみが確かにあるのです。
どうしてこれほど、覆い隠すのでしょうか。これでは観る側に真意が伝わらない可能性があります。
ウェス・アンダーソンはシャイなのか? それともへそまがりなのか? そんな想像をしてしまいます。
この映画の本質は悲しみ、喪失感、寂しさから癒やしへの道ではないかと、私は思いました。
このアステロイド・シティに集まった人たちはまさに「隕石の穴」のようなものを抱えているのです。
ただし無表情で棒読み、笑いはシュール、作り物感いっぱいのセット、嘘のようなパキッとした空と砂漠の色。
大切なものをあえて語らず、相反するものを多用して、本質を隠す。そんな手法なのです。不思議ですよね。
三重構造の複雑さと単調さで、眠気に襲われましたが、目が覚めた時に「眠らなければ、目覚められない!」のセリフがタイミングよく飛び込んできました。
まさか眠くなるように計算されていたとは思えませんが、なにかとても心地よい感じがして、癒やされました。
もしかすると、宇宙人の力で眠らされていたのかもしれません。
物語としては宇宙人が来て、去っていくだけの話ではありますが、なんだか妙に面白い作品でした。
直視しない優しさにあふれた、繊細な映画、ではないでしょうか。
寝てもいいか…と思いながら、もう一回観たい気がします。
そうそう、見た感じがゲームの「MOTHER」に近いと思いました! 砂漠や隕石といったモチーフが、とてもそれっぽいです。
あのような世界観がお好きな方は楽しめる、かもしれません。