親子3人で見に行こうとしていたのですが、予定が合わず自分だけ鑑賞。
ひとりで良かった…家族だと微妙な空気になったかもしれません。
真実はひとつでも、思いはさまざま。
白か黒かの法廷ドラマ、というよりも家族(夫婦)の問題が浮き彫りになっていく人間ドラマでした。
息子のダニエルがどう感じ、どう動くのかが鍵をにぎっていて、そこがとても面白かったです。
目次
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。
当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。
息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。
2023年製作/152分/G/フランス
『映画.com』より引用
原題:Anatomie d’une chute
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年2月23日
判決は出るものの、真相がどうだったのかは不明なまま終わります。
最初は、夫殺しの疑いをかけられた「無実の妻」に見えていたザンドラでした。
しかし、前日の喧嘩や女性との不倫(バイセクシャル)など、裁判の過程でさまざまな事実が出てきます。
弁護士は「どう見えるかが重要」と言いました。
情報が明らかになるにしたがって、見る側は「もしかしたらザンドラがやったのかも…」という気持ちにさせられていきます。
冒頭、転落した夫を見た時のザンドラの慌てぶりは真に迫っていて、私は、夫は自殺で確定だろうと思っていました。
そのため、続々と出る情報とのギャップに混乱しましたし、ちょっと後出しジャンケン的でズルイかな?という気はしました。
さらに、終盤にかけて、もしかすると決定的な証拠が提示されて決着するのか?と思ったものの、ザンドラには普通に無罪の判決が出ます。
「あ…それで終わるんだ…」という少し拍子抜けした感じもありました。
それでも非常に面白く鑑賞したのは、息子ダニエルの存在があったからです。
自殺か他殺かはわからないため、夫婦それぞれの本心というものも結局わかりません。
一方、息子ダニエルの気持ちは推測できます。
ダニエルと父親との関係は密接であり、母親とはあまり絆が強くありませんでした。
両親のうち、より信頼している父親を亡くしたこと。
さらに、父親が自分の世話を負担に思い、母親と言い争いをしている録音を聞いたこと。
彼は相当なショックを受けたはずです。
言い争いの内容から、父親に対する失望が少なからずあっただろうと思われます。
ダニエルは、自分の証言次第で、母親が殺人者になるかどうかが決まるという立場に置かれました。
判決が出るまでの一年間で、彼は亡くなった父親ではなく、母親を選んだのでは? と考えました。
ダニエル自身にも真実が分からない中で、11歳という年齢ながら「どうすれば母親を救うことができるのか?」を考えたに違いありません。
愛犬を危険にさらしてまで、母親に有利なストーリーを作ったのだと私は見ました。
父親がいない今、彼には母親しかいません。
その母親が殺人者になれば、自分はその子どもという立場になりますし、収監されれば一人ぼっちになります。
その辺りも少なからず考えに入っていたと思います。
純粋な母親への愛情だけではないかもしれない、と言えばシビアな話ですが、親権者がいなくなることは子どもにとって恐怖です。
ダニエルは一年間で「父親が自死であることが矛盾しない説」を作ったのではないでしょうか。
そして彼の物語はとても腑に落ちるよくできた内容でした。
子どもながらに考え抜いた結論で、その気持ちを考えると、とても健気で痛々しくもあります。
この物語は夫婦の問題が浮き彫りになる中で、子どもが葛藤し、自分の道を選んでいく成長物語だったのかな、と私は思いました。
自殺か他殺か分からないために、スッキリしない方も多いと思いますが、私はダニエルが「そう決めた」のだと解釈することで、この映画をとても楽しみました。
本当に色々な映画があって、面白いですよね。