「太った人の話かぁ…」と、実はあまり期待しないで観に行ったのですが、思いのほか良かったのですよ!
うまくお伝えできればいいのですが。
雑なあらすじ
主人公チャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、同性の恋人アランを自死で亡くした後、過食により272キロとなる。ひきこもりであり、友人はアランの妹リズだけ。仕事は大学の国語教師だが、オンライン授業で自分の姿を明かすことができない。
体調は次第に悪化するが、病院を頑なに拒み、余命を悟る。彼には離婚した妻との間に17歳の娘エリー(セイディー・シンク)がいた。8歳で別れたきり交流のない娘と再会するが、彼女は自分を捨てた父親を恨み、心がすさみきっていた。
チャーリーは残り数日の命をかけて、娘との関係を修復しようとする…。
チャーリー(父)の立場
娘との関係を修復、と書きましたが、彼にとっては、関係修復が一番大切なものではないように見えました。
本気で親子の絆を取り戻す気持ちがあれば、病院にも行かず、みすみす命を捨てるような行動を取るでしょうか。
チャーリーはアランの死によって深く傷つき、ゆるやかな自殺行為を選んだと言えます。
そして、命の期限を決めなければ、娘に向き合う勇気が持てなかったのではないか?と思いました。
彼の言動を追っていくと、関係を修復したいというよりも、ただただ愛情を伝えたいと、いう気持ちが大きいように見えます。
チャーリーがやさぐれた娘に対して「すばらしい子」だと言い続けたことに、心打たれました。
短い期間で子どもの心を動かした理由はここでしょうね。
エリー(娘)の立場
非常にすさんでいて、父親を恨んでもいますが、それでも毎日のように家に来るというのが、どういうことなのかと一見思えます。
これは娘からの試しではないでしょうか。どんなことを言っても受け止めてくれるのかという、試しを繰り返しているように感じました。
エリーはあまりにも深く心を閉ざしていて、どのように気持ちと折り合いをつけるのかが注目でした。
8歳から17歳の空白を5日で埋めるのは、とても難しいこと。この子はこの子で、精一杯頑張った結果なのです。
そう考えると、エリーにも優しい気持ちを持つことができました。
まとめ
単なる「太った人の最後の5日間の話」でないのは、チャーリーが「生き続けたい」と思っていないところでしょうか。
自分自身が生きたいと思っていないにもかかわらず、娘には希望を見いだし、すばらしい娘だと伝え続けたことに、物語の深さを感じました。
娘からの厳しい試しに打ち勝ったのと引き換えに、命を失ったチャーリー。
もっと早くに心が満たされる行動を取れていたら、別の結果になったでしょう。しかし、その不器用で苦しい生き方もまた人間の姿なのだと思いました。
しみじみしたい方におすすめの映画です。